真の才能

塵滓猫露

第1話 日常

秋山健斗は、大学生活を終えて就職活動を始めたばかりの就活生だ。

朝、健斗は自宅のリビングでコーヒーを飲みながら漫画を読んでいた。陽の光が窓から差し込み、穏やかな時間が流れている。


「今日も面接か…。」

健斗は漫画のページをめくった。


健斗は電車に揺られながら、スマホゲームをしていた。周りの乗客の顔を見渡すと、みんなそれぞれの世界に浸っている。

「今日の面接は何を聞かれるんだろう。」

健斗は内心でつぶやきながら、ゲームの次のステージに進んだ。


面接会場に到着すると、健斗は他の就活生たちと待合室で待機していた。周りの学生たちは、自己PRの練習をしたり、質問に対する答えの練習をしている。


「僕の趣味は登山です。登山を通じて、自然の美しさと自分の限界に挑戦することができるんですよ。」


「私は料理が趣味です。新しいレシピを試すのが好きで、友達にもよく振る舞っています。」


そんな会話が耳に入ってきた。健斗はその様子を見ながら、心の中でため息をついた。


「みんな、そんなに趣味に没頭してるんだな。俺はただ、漫画を読んでアニメを見て、ゲームをするだけなのに。」


ついに健斗の番が来た。面接室に入ると、面接官が彼を迎えた。


「秋山さん、どうぞお座りください。まずは自己紹介をお願いします。」


「はい、秋山健斗です。大学では経済学を専攻していました。」健斗は緊張しながらも、しっかりと答えた。


「それでは、秋山さんの趣味について教えてください。」面接官はにこやかに尋ねた。


「趣味ですか…。漫画を読むこと、アニメを見ること、ゲームをすることです。」健斗は正直に答えた。


すると、面接官は軽く笑いながら答えた。「そうですか。でも、そんな趣味じゃあ仕事には役に立たないかもしれませんね。」


健斗はその言葉に内心で疑念と苛立ちを感じた。『なんでそんなことを言うんだ。俺の趣味がどうであれ、仕事に関係ないだろうが。』


面接が終わり、健斗は帰り道で自分の心の中で考えを巡らせていた。


『俺は自分の時間の過ごし方が好きで良いものだと思っている。趣味と言えるほどの趣味はないが、漫画を読み、アニメを見て、ゲームをする、あとは寝る。これを繰り返していれば休日は終わる。何か得られるものはない。でも、この穏やかな時間があるからこそ、他の時間を有意義に生きられるとも思える。この時間が人生で最も幸せな時間だと思う。おだやかなぬる湯の中で、なんの変化もなく過ごす時間。それはきっと仕事とかいう場面では全く重宝されないのかもしれないけれど、こんな風な過ごし方ができる自分は誰よりも幸せだと感じている。面接のために趣味を充実させたり、周りに話を合わせるために趣味を頑張ったりしている人間は、むしろ可哀想だな。』


健斗の思考は続いた。

『だからこそ、あの面接官にひどく苛立ちを覚える。趣味の欄が立派で趣味を生き生きと話している人間が、優秀な人間なのか。想像力があり、活力があり、何事も前向きに、チャレンジ精神があり、楽しむ事ができる。そういった素晴らしい人間なのか。そして、会社の人間すべてがそうであってほしいと願っているのか。』


健斗はふと立ち止まり、空を見上げた。

『本当にそうなのだろうか。統計的に経験的にそうなのかもしれないが、たとえ趣味を充実させられていない人でも、何かを持ってる人はいるんじゃないか。本当に優秀な人材がほしいなら、面接側の方ももっと力を入れればいいのに。もっと面接の内容を考えた方がいい。』

そう思って、相手に失望した。


その後、健斗は友人の中村亮介とカフェで落ち合った。二人は面接の話をしながらコーヒーを飲んでいた。


「どうだった、面接?」亮介が尋ねる。


「また趣味について聞かれたよ。俺の趣味なんて漫画とアニメとゲームだけど、それじゃダメだって言われた。」健斗は苦笑いを浮かべた。


「それって本当に腹立つよな。趣味が仕事にどう関係あるんだって思うよ。」亮介は同情するように言った。


「そうだよな。俺たちの趣味がどうであれ、仕事で何ができるかが大事なんじゃないか?」健斗はため息をついた。


「全く同感だよ。だけど、現実は厳しいよな。」亮介は肩をすくめた。


こうして健斗の就活は続いていく。彼は自分の時間の過ごし方を悪いものだと思えなかった。しかし、就職活動の現実に直面し、内心で葛藤を抱え続けていた。

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