第2話

 僕は冴えない一介の高校生であり、勉強だけはできる。そんな僕は夏休み明けの、久々の学校に気持ちを落としながら、教室で友達と喋っていた。先生が教室に入ってきて、軽くホームルームが済んだ。休み時間になって、教室は話し声でざわざわしだした。授業の準備を取りに行こうと、後ろのロッカーへ向けてあるき出したとき、僕はその子を見つけた。彼女は友達と話しているらしかった。僕はその時、可愛いとそう感じた。今までは、彼女に対してなんにも思っていなかったし、夏休みの間に特段変わっているわけではないけど、僕は可愛いと思った。その後、何日か経ったあとも、僕は度々彼女を見ると心のなかで可愛いと思った。

 僕は彼女のことを少しずつ気になり始めた。そして、話してみたいと思った。でも、冴えない僕にはどうやって彼女に近づけば良いかが全く浮かばなかった。なので、いつも一緒に帰っている友達Sに女の子への近づき方を聞いた。彼は、彼女持ちのイケイケ男子だったから、かなり女性との関わり方に心得があるらしかった。彼は、僕にまずは挨拶をしてみてはどうかなと提案してきた。なぜ?と問い返すと、なるほど理にかなっているなと思わせる答えが帰ってきた。それは、急に話しかけると警戒されてしまう。だから、挨拶を君に勧める。挨拶なら気軽に出来るし、警戒されにくく、好印象を得られやすい。そんな感じのものだった。

 さっそく、僕は実践してみようと思ったけど、結果は駄目だった。僕は女性経験ゼロの冴えない男子高校生だ。挨拶すらできない自分に、僕は僕を恨んだ。でも、これ以外彼女に近づく方法も思いつかなかったので、朝のホームルーム前の時間に挨拶をしようと決心した。

おはよう。緊張のあまり、声を震わせてしまった。またもや自分を恨んでしまった。しかし、おはようと笑顔で帰ってきた。僕は安心し、そして嬉しかった。その後は、緊張することなく、他愛のない話をした。ガラガラガラ、はい、席についてください。先生がそう言って、教室に入ってきたので、僕らは会話をやめて、僕はまたねと言って、自席に戻った。僕は耳が赤くなっていたかもしれないけど、彼女と話せて嬉しかった。可愛いという気持ちは、このときから少しずつ好きという気持ちに傾いていっていたのだろう。

 僕は勉強だけはできる。そう、僕は進学校に属しているのだ。平均睡眠時間は、五時間で、毎日七限目まで、授業がある。更には、課題の量も多く、夏休みの課題に関しては、机に並べたら富士山みたいな形をしていた。故に、僕は追い込まれていて、毎日しんどかった。そんなときに彼女の愛しい笑顔を見るとすっと、体の中から疲れが消えていくような気がするのだ。彼女の笑顔は掛け値無しで、僕には天使のように見えた。温かく僕を、包んでくれるような笑顔にいつも心がやられていた。僕は気付いた。彼女のことが好きだと。そのように気づいたら、僕は彼女をより意識するようになった。それからは、僕は彼女に積極的に声をかけた。互いの趣味であったり、学生らしく、課題の話や小テストの話などをした。僕は、それだけでは飽き足らず、いつも授業終わりには彼女の顔をこっそり見て、可愛いなと心のなかで思っていた。友達と学校帰りには決まって、彼女の話をした。その内容はほとんど彼女の可愛さに胸を打たれている、僕の一人語りだった。

「本当に可愛い。あの愛くるしい顔、最高だね。声も幼気がありつつ、きれいな声で可愛い。そして、何よりもあの笑顔。あの笑顔を見ると、疲れがすっと消えていくような心持ちがするんだよ」

「ホント好きだな。一途なお前は、ずっと彼女のことが好きだろうな」

 彼女は時々学校を、休むことがある。そんなとき、僕はありえないほど落胆する。自分でも驚くくらいだ。

 今日は家庭科の調理実習の日だ。僕は形容できないほど、気分が良く、ウキウキしていて、常にニヤニヤしている。僕はこの日をずっと前から待ち望んでいた。なぜなら、彼女と僕は同じ班だからだ。僕は彼女に自分が料理できる男子、いわゆるイクメンとやらを見せつけようとしていたのだ。なので、何日も前から料理のレシピを熟読して、覚えていた。自分でも引いてしまうほど熱心だった。ややもすれば、体全体でプロミネンスしていたかもしれない。僕らは先生の話を聞いて、さっそく料理に取り掛かった。僕たちの班は四人で、幸いにもじゃんけんをしたら、彼女と二人で取り組むことになった。彼女と隣り合わせで、作業をしながら、話をしていた。彼女は、ずっと前からなかなか寝付けなかったり、食欲がなかったりするのだそうだ。僕は、頑張りすぎてるかもだから、少しは休んだらと答えた。話をしながら、僕はこんな事を考えてしまった。「なんだか夫婦みたい」自分でも自分のいやらしい想像に幻滅してしまった。僕は最高に幸せだった。こんなにも近い距離で彼女の美しい顔を見たり、話すことができたりして、永遠にこのままでいたい

、なんてこともかんがえた。

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