第36話 マスクの召喚士


「先生! 私は今日、先生に勝ちます!」


 ミュウが力強く宣言する。それに対して先生は無言で、にやけているように見えた。ミュウは馬鹿にされたと感じたのだろう。感情が表情に現れている。ちょっと入れ込み過ぎだ。このままでは先生の召喚獣と戦っている間にネオシャイラのカメに攻撃されてしまう。


 そう考えていたが、どうやらネオシャイラもミュウ同様に先生を攻撃する気に見える。カメが俺の眼を見てアピールしてくる。


『ワシらは彼奴を攻めるじゃろう。どうじゃ、まずは協力して彼奴を倒さんか? ワシらの決着はその後で良かろう』


 恐らくこれは俺への揺さぶりだ。俺たちが先生に意識を向け過ぎたら、カメに不意を突かれる可能性がある。そんな攻撃にやられるものかよ。成長したのはミュウだけじゃない。俺だって精神的にタフになってるはずだ。


『さあな。今のミュウは俺に頼るだけじゃない。いじることもできる。俺が何でもかんでも指示を出す必要はないんだ』


『仕方ないのう。ま、どうするかは嬢ちゃん次第じゃが……』


 カメの言う通りにした方がいいのは分かる。成功すれば最低でも二位以上が確定するわけだから。でも今回は事前の話し合いで、戦いの主導権は俺じゃなくてミュウが握ると決めたんだ。リスクはあるが、これを乗り越えればミュウは召喚士として一人前になったと胸を張って言えるようになるだろう。



 ――始め!!



 考え事をしているうちに運営から試合開始の合図がでた。

 さて、ミュウはどう動くか……


「マスター! あの鳥を攻撃してください!」


「シュテフィン! 鳥をやりなさい!」


 ミュウとネオシャイラが同時に指示を出す。どうやら二人とも同じことを考えていたみたいだ。


 それに対してマスクの召喚士は声を出さずにハンドシグナルで鳥に指示を出した。召喚獣の鳥が召喚士の肩から飛び立って空に上がる。


 カメはそれを押さえつけるように、さらに上空に浮いた。ジャンプとかじゃなくて普通に飛んでる。でも、そんなことくらいじゃ俺は驚かないぜ。


 カメは飛び上がる直前、ちょっとだけ俺の方を向いた。どうやらカメは先ほど話したことを実行するらしい。なぜだかそう感じた。よし。俺はカメを信じるぜ。付き合ってやる。


 カメは鳥より素早い動きで頭を抑えにかかった。俺はカメが鳥を叩き落とすであろうポイントに向かった。


『ほれ、小僧。トドメは任せたぞ』


 カメの攻撃を受けて、鳥が地面に近づいてくる。俺はそれを待ち構えて突きを繰り出した。鳥にヒットしたが一撃では倒しきれなかった。


「浅いか……」


 拳が当たる直前に鳥が方向転換したせいだ。だが羽に触れた感触は拳に残っている。その証拠に鳥の動きは非常に鈍くなっていた。最初の時点でカメに速度で上回られたのに、傷ついた今の状態ではどうしようもないだろう。


 この大会ではスターボールに戻って回復することは禁じられている。その瞬間に失格だ。だからこの戦いで傷が回復することはない。もう詰んだといっていいだろう。だが俺は油断することはない。勝負をつけに鳥に向かって走った。カメも空から鳥に向かっている。


「待ちなさい、あなたたち! それは卑怯でしょ!」


 マスクの召喚士が突然声を上げた。確かに二対一は良くないけど、結果的にそうなっただけでズルしようとかしたわけじゃないし。てか、女性の声? 先生って女の人だったのか。ミュウとシャイラは女の人に恋してたのか。いや、俺はそういうのには寛容な方だけどさ。一応確認のためにミュウを見ると、ミュウは目を丸くして驚いていた。


「先生じゃない……? でもその声は……」


 先生ではなかったのか。それなら驚いてるのも納得だ。先生だと思ってたのが別人だったんだからな。でもミュウの反応はどこかおかしい。まるでマスクの召喚士が知り合いであるかのような口ぶりだ。


「正体を明かしなさい!」


 ミュウと同様に驚いているネオシャイラが問いただす。それに対してマスクの召喚士がマスクに手をかけた。わざわざ隠していたというのに正体を明かすというのか。離れているのに、ミュウの心臓がバクバクしてるのが伝わってくる。マスクがめくれていき、素肌が見えてきた。


「…………お母さん!?」


 なんだって!?

 あのマスクの召喚士はミュウの母親だっていうのか!


「そうよ、ミュウ。私よ」


 ……な、なんて堂々としてるんだ。後ろめたさなんてまるで感じないじゃないか。ミュウの村に連れていくまたとないチャンスだと思ったけど、これは手ごわそうだぞ。

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