第34話 再戦へ
「話は聞かせてもらったわ!」
宿の扉が勢いよく開かれて、カメに乗った少女が現れた。変なマスクをつけているが見覚えがある。ミュウなら当然分かるだろう。
「シャイラちゃん!」
「ふふふ……勘違いするな。私はシャイラではない。ネオシャイラだ!」
「ネオシャイラ……嘘、シャイラちゃんだよね?」
「シャイラではない!!」
「シャイラちゃん……」
「止めろ、ミュウ! それだと話が進まないから一旦設定を受け入れるんだ!」
シャイラが変わったのは名前だけじゃなさそうだ。個性的な服装になっただけでもない。恐らく目立つ服装を普段から着ることで意図的に注目を集め、羞恥心を克服してシャイラが精神的にタフになった。失恋と敗北を乗り越えて、召喚士として成長したみたいだ。カメの動きがシャープに見える。
「では改めて聞こう、ネオシャイラよ」
「なんでも聞きなさい。今の私は召喚獣の話しにも傾ける耳を持っているわ」
「知り合いでもないのに何故この部屋に来たんだ? 他人なのに、ちょっと馴れ馴れしくないか?」
「……くっ、確かにその通りね。ここは引き下がってあげるわ。でも覚えておきなさい。大会で優勝するのは私だということをね!」
ネオシャイラは捨て台詞を吐いて俺たちの部屋を出ていった。だが自信はありそうだった。これは強敵だぞ。
「……シャイラちゃん、戻ってきませんね?」
「ああ。どうやらネオシャイラは、ミュウに宣戦布告をしにきただけのようだな。申込するときに俺の姿を見られたのかもしれん」
「……あの、マスター?」
ミュウが何かを言いたいことがあるが言いづらいことなのだろう、体をもじもじとさせている。まあ、言いたいことは分かってるけどな。
「なにも言わなくていい。シャイラに負けたくないんだろ?」
ミュウが真摯な表情で頭を下げる。
「送還魔法とかそういうのを抜きにして、シャイラちゃんとは戦いたいんです」
「なにも問題はないさ。別に読み書きの勉強が嫌だから勝ちに行くとかじゃないんだし」
「はい、もちろんです!」
送還魔法が書かれた書物は別に貴重な読み物じゃない。金を払えば普通に購入できる。トゥルンという大きな都市にきて初めて知ったことだ。勉強したから分かるようになったけど、実際に書店で売ってるのを見たことがある。ただちょっと値段が高いから二の足を踏んでいるだけだ。ミュウが勉強を焦らないようにまだ知らせてないけど。
読み書きの習熟が順調な現状では、むしろ巻物がない方が目標を失わずにモチベーションを保てるかもしれない。そうなればミュウは将来の憂いが減って召喚士としてさらに成長していくことだろう。
「それにしても、シャイラちゃんはどうして変な格好をしてたんでしょうか? それにネオシャイラなんて名乗って……」
「これは恐らくだが、シャイラはミュウに負けたことがショックだったんだ。俺たちが思うより傷は深く、傷を癒すためには大きな変化が必要だった。きっとシャイラは自分を変えたかったんだな。一からやり直すために」
「シャイラちゃん……絶対前より強くなってますね」
「カメもな」
ミュウはシャイラに勝ったが俺はカメに勝っていない。俺は勝てるだろうか。
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