第31話 弱点克服の先に


 愉しい食事を終えて宿に戻るい途中、俺たちは今後について話し合っていた。


「それで読み書きについてはどうなってますか?」


「今のところ難しいな。そういう講座はあるらしいけど小さな子供用のだったし。子供に混じって勉強するにしても、もうだいぶ先に進んでるらしいから時期的にタイミングが悪い」


 ネガティブな報告だがミュウは安心しているようにも見える。勉強をしたくないってよりは、子供たち相手に恥をかきたくないってところだろう。


「それでだ。昨日聞き込みしていたところ、宿の子供が前に使ってた教科書がまだあるって話になってな。それを譲ってもらえることになったんだよ」


「なるほど。自分たちだけで勉強するんですね」


 読み方だけ教えてもらえれば俺が日本語で記録できる。意味自体は分かるから、あとは反復練習あるのみだ。調べたところ紙の値段もそれほどじゃなかった。まあ、ヤギのおやつになるくらいし、田舎でも買えるくらいだ。


「そういえば読み書きを勉強をするのって、元はと言えば私の弱点をなくして強くなることが目的ですよね?」


「たしかそう言ったな。不服か?」


「いえ、私の将来がかかってますので勉強するのは構わないんですが、私たちってこれ以上強くなる必要があるのかなって。 今の私たちくらい強くなればモンスターに襲われることはないですし、シャイラちゃんにも勝ちました。別に強さを求めなくてもいいと思うんです。マスターは男の人だからそういうのに憧れがあるのかなぁって。なんとなくそう思ったんです」


 なるほどな。読み書きは問題ないが、弱点克服という名目で色々とお勉強させられるのは嫌と見える。それとなく伝えてくるとはミュウもやるじゃないか。別に強力なモンスターが存在して立ち入り禁止の場所があるわけでもないらしいし、母親を探すだけならこれ以上強くなる必要はないだろう。だが……


「甘い! 甘すぎるぞ、ミュウくん!」


「どういうことですか。マスター? 私のなにが甘いって言うんです」


「俺たちの目的を忘れたのか?」


「お母さんを探すことです。あと送還魔法も」


「違ーう! 母親を探して連れ帰ることだ。ミュウは会って話せば母親が素直に家に戻ってくれると思ってるのか!?」


「あっ」


 どうやらミュウも気づいたようだな。


「理解したようだな。覚悟を決めて家を出た母親相手に弱腰のミュウが説得できるはずがない。強く言われても反論する力が必要だ。言い返せずに黙ってるなんてもってのほかだぞ。ミュウはちゃんと言い返せるのか? 浮気相手と出ていった母親相手に!」


「……言えません。あとちょっと声が大きいです」


「そ、それはスマン」


 周りを確認して小声で話す。個室なので意味はない。


「ミュウの母親なんだ。間違いなくミュウの弱点を知っているはずだ。追い詰められれば酷いことを言ってくるかもしれない」


「不屈パンチほどじゃないと思いますけど? でも確かに可能性はありますね」


「だがその時までに、もしミュウが弱点を克服していたとしたら? 弱点を突かれても耐えられる精神力があったとしたら?」


「カウンターのチャンスが来る……ということですね?」


 ミュウは母親に勝つ自分を想像したんだろう。高揚感が顔に表れて笑みが漏れている。まあ俺もそうだろうけどな。どうやら理解してくれたようだ。母親に思い知らせてやるがいい。子供の成長力ってやつをな。


「分かったのなら弱点の克服だ。まずは読み書きだぞ!」


「イエス、マイマスター!」

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