第30話 自信を回復させよ
ミュウは気持ちの切り替えが上手な娘だ。ちょっと
仕事の話はとりあえず横に置き、まずは料理を楽しんで会話を弾ませる。お互いが集めた情報を共有する。デザートが配膳された頃、俺は本題を切り出すことにした。
「今日ここに誘ったのは、ミュウと話したいことがあったからなんだ」
「やっぱりそうだったんですね。でもお金を出すのは私ですよね?」
「俺が預けてるお金から出していいから!」
俺は召喚獣だから突然ミュウに召喚されて別の場所からミュウの元へ空間移動することがある。ただその場合には着てる服以外は俺と見なされず、所持していた物がその場に残されてしまうんだ。戻ってきても、誰かが持ち去ってしまっている可能性が高い。そのため最低限のお金以外はミュウに預けるようにしてるんだ。
「そうなんですか? ケチなマスターが奢ってくれるなんて嬉しいです」
こ、この娘。もしやカフェで溜めたストレスを、俺をいじることで解消しようとしてるのではないか。俺の性癖には合わないが、ミュウのためなら我慢するのもやぶさかではない。だがそれでは根本的な解決にはならんのだ。
「ミュウの仕事ぶり、見させてもらったよ。正直言ってミュウは浮いてたよ」
「やっぱりそうですよね。皆さんオシャレで輝いてましたから……。所詮、私は田舎者だったんです。都会じゃ通用しない田舎の給仕なんですよ! マスターだってそう思ったんでしょ!?」
やはりそんなことを考えていたのか。
「そうじゃない。そうじゃないんだ。浮いてるっていうのは、ミュウが一人だけ自信を持ってないからそう見えるだけなんだよ。ミュウは周りのレベルの高さに怖気づいてるんだろうけど、周りの良いところばかりを見て落ち込む必要なんてないんだ。かつては俺もそうだった。周りと比べて勝手に落ち込んでさ」
「……マスターもそうだったんですか?」
「そうさ。都会は華やかだからな。みんなすごくカッコよく見えたし、可愛く見えた。みんな初めはそうなんだ。でも壁にぶつかって自分を成長させてきたんだ。先輩たちだって今のミュウと同じだったはずだ。案外ミュウと同じで田舎出身だったりするかもな。だからミュウも自分が田舎レベルだとか、都会じゃ通用しないとか、卑屈に思う必要はないんだ」
「いえ、そこまでは思ってませんけど」
「……とにかくだ!」
「あ、誤魔化した」
「彼女たちには彼女たちの魅力があるし、ミュウには別の魅力がある。ティンパでおじさんたちを魅了してたじゃないか」
俺の言葉が心に響いたのか、ミュウは何かを考え始めた。いい方に向かってくれればいいが、まだ油断はできない。
「マスターが言ってること、なんとなく分かります。でもカフェのお客さんは若い人が多いんですよ。おじさんなんてほとんど来ないんです」
「なんだって!?」
まずい。これはまずいぞ。このままではミュウに押し切られてしまう。なんとかしなくては。……そうだ!
「でも現実にミュウは雇われてる。即採用だっただろ。オーナーはミュウに可能性を感じていたはずだ。若者相手にも通用するだろうと。ミュウが本来のポテンシャルを発揮できれば、戦力に……いやナンバー1にすらなれると!」
流れに任せて語ってしまったけど、ミュウが実力を発揮できれば可能性は十分にあると思ってる。なんだかミュウもその気になってきてるように見える。別にそんな店ではないが。
「ナンバー1……やっぱり、やっぱりマスターもそう思いますか。オーナーがそう感じていたと。私もそんな気がしてたんですよ! そうなんです。化粧の上手さとか年季では勝てないですけど、若さと素材の良さでは全然負けてないなって思ってたんです!」
「お、おおぅ」
言うねぇ。とても先輩たちには聞かせられないぜ。でもとりあえずはこれで大丈夫そうだな。
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