四章 都会の壁

第27話 封印を許可する


 チックと別れた俺とミュウは旅路を急いだ。


 このままではミュウのメンタルがやばい。今の俺の実力ではミュウを支えることができない。一刻も早く食堂で雇ってもらい、おじさんたちにチヤホヤしてもらう必要があった。


 補助魔法の効果が低い今の状態の俺だと、弱者と見なされてモンスターに狙われる恐れがある。俺はミュウを背負ってトゥルンへと走った。


 しばらくすると大きな街道と合流した。人通りが多くなり、警備の人員が配備されているのでようやく一息つけそうだ。俺たちは一旦休憩所で休むことにした。


「マスター、背負ってくれてありがとうございました」


「いや、たいしたことじゃない。俺もミュウには負担を強いたみたいだしな」


「私、マスターに背負われながら考えてたんです。このままじゃ駄目だって。だからもっと頑張らなきゃって」


「ミュウは十分頑張ってるよ。おかげでここまで一度もモンスターに襲われてないだろ」


「ううん。駄目なんです。一発の強さに頼らず、基礎的な力を見つめ直さないといけないんです。不屈パンチを使わなくてもいいように……」


 ミュウは真剣な表情だ。ミュウ自身が変わろうとしている。それなら俺はミュウの背中を押してあげるべきだ。


「ミュウの考えは分かった。それで具体的にはどうするつもりなんだ?」


「必殺技は封印します。不屈パンチはもの凄いパワーでした。でも威力があり過ぎてへの影響がはかり知れません。使用は控えるべきだと思いました」


「確かにな。やはり召喚士としての基本に立ち返るべきなのか。俺には何が基本なのかさっぱり分からないが」


「はい、私もです」


「いや、ミュウは知っておけよ!」


「知らないものは知らないんだから、しょうがないじゃないですか!」


 ツッコミに対するこの返し……。落ち込んでいたはずの状態でこの力。やはりミュウには反発力がある。不屈パンチを封印するにはもったいない。だがまだ早すぎたということか。


「正直トゥルンのような大都市で不屈パンチを使用したら私は死んでしまいます。精神的なダメージで」


 不屈パンチを使った時にいたのがチックとチックの母親だけだったからいいものの、都会で使ったらどうなるか分からない。伝言ゲームみたいに歪んで伝わる可能性もある。そしたらミュウは二度とこの地を踏めないだろう。


「だから私は必殺技に頼らなくてもいいくらいの実力を身に着けたいんです!」


「そんなに使いたくないか! 俺たちの信頼の結晶である不屈パンチを!?」


「はいっ!」


 いい返事だ。これが変わろうとする少女の力強さか。そこまでの覚悟があるなら文句はない。


「基礎的な力を上げるのは地味で辛い道のりになるだろう。それに耐えるんだな!?」


「楽ちんコースでお願いします!」


「よし、分かった!」


 田舎でぬくぬくと育ったミュウに厳しすぎる訓練は耐えられないだろう。だが俺の考えた飴と鞭ならミュウでも可能なはず。完璧だ。

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