第17話 戦わずして勝つ
お金を貯めた俺たちは、召喚士の登録者講習にやってきた。場所はティンパの町の集会所の一室で、召喚獣も入れるように広めの部屋が用意されていた。会場には俺たちとシャイラの他に老夫婦らしき二人の召喚士もいる。
その召喚士たちは前列に並んで座っている。そして後列にはミュウとシャイラが隣り合うことになった。先日のやり取りから俺は緊張感を持っていたが、二人に危ない気配はなく普通に会話をしている。やはり、幼馴染として過ごした時間のせいだろう。一時的に対立することはあっても大丈夫なようだ。
講義が始まった。
内容に特に変わったものはないようだ。基本的には他人の迷惑になることは止めましょう、召喚獣が悪さした場合の責任は召喚士にありますって説明だな。あとは具体的な事例が挙げられている。テキストなどないし黒板もないので全て暗記しなくてはならないが、現代日本の常識からすれば普通のことなので特に気を付けることはないだろう。
最後に講師から受講生から渡されるものがあるようだ。
「これはスターボールといって召喚獣を入れておくことができるんです。召喚獣はスターボールの中から外の様子が分かるので、普通に召喚するより召喚獣の状況判断が的確になりますし、出し入れに魔力を使わないので便利なんですよ。まあ、多くの召喚獣は入りたがらないんですけどね、ははは。ですが、ドレスコードがあるような召喚獣が入れない場所もあるので、そういった場所に入る時には必須ですね」
なるほど、なるほど。本がない分、こういった講義から得られる情報は貴重だな。
「ところで皆さん、登録料が高いと思ったでしょう? 実は、このスターボールの購入費用が掛かってるからなんですよ。でもそれくらい価値のあるものですので大事に使ってくださいね」
講師が得意げになって話している。講義の時間と内容じゃ大した稼ぎにならないからスターボールをセットにしたんだろうに、よくもまあ。どうせ大量購入したとかで安く仕入れたんだろう。
ふと、隣に座っているミュウを見ると表情が冴えない。さっきまでの笑顔が綺麗に消え去っている。スターボールがかぶったからではないだろう。ちょっと心配だ。小声で尋ねる。
「大丈夫か、ミュウ。どうしたんだ、急に」
「私……十倍だった」
「なにが?」
「先生からスターボールを
そ、それって結婚詐欺師みたいじゃないか。登録者講習の金だって結構したのに、その10倍かよ。しかも本来であれば買う必要がないものを買わされてだ。ミュウの恋心を利用して不当に高い値段をつけるなんて。憧れていた召喚士の先生がそれじゃあ、ミュウが傷つくのは当然だ。
このままではミュウがまた落ち込んでしまう。なにか声を掛けなければ。でもどう声を掛ければいいんだ。迷っていると、隣に座っているシャイラがぽつりと漏らした。
「私は……五倍だった」
お前もかよ!
なんてことだ。ミュウだけでなくシャイラまで騙されていたなんて。当時十四、五歳の少女たちを騙すとはなんて酷い男なんだ。しかし二倍の差はなんなんだ。ミュウの方が騙しやすかったというのか。
ミュウは嘆き悲しみ、それが怒りに変わり、そして今は何故か笑みを浮かべている。ミュウの心は壊れてしまったんだろうか。
「きっと……きっと先生は私よりもシャイラちゃんの方が好きだったんだね」
ミュウはいったい何を言ってるんだ……。シャイラの購入費用の方が安かったから、シャイラの方が好かれていたとでも言いたいのか。二人とも詐欺られてたというのに。
「それにこの間の戦いも私が負けちゃったし……シャイラちゃんの先生を想う気持ちには私じゃ勝てないなぁ。やっぱり先生の一番弟子は凄いなぁ。私はおとなしく身を引くよ。先生のことよろしくね」
あなたが私に勝てたのは、先生への想いの強さのおかげ。ミュウはそう告げている。詐欺師と両想いだと言われて喜ぶ女の子はいないだろう。言葉と態度とは裏腹に、ミュウは勝ち誇っていた。そして、それをシャイラも理解しているようだった。それほどまでに先生って奴のことを想っていたんだろう。
「くっ……」
なんて逆転劇だ。シャイラは顔を伏せ、ミュウから目を逸らした。ミュウの笑みが歪んだものに変化していく。ミュウは試合に負けて勝負に勝ったのだ。最初の敗北はこの時のための布石だったんだ。
醜い。
なんて醜い争いなんだ……。
ミュウとシャイラは悪くない。二人がこんな状況になったのは、恋愛感情を利用した先生って奴のせいだ。俺はそいつを許す気はない。
ともあれミュウはシャイラに勝利した。ミュウの自信が補助魔法を通して俺の肉体に伝わってくる。ここでシャイラを追撃するのは流石に鬼畜過ぎる。改めて勝負を申し込む必要はないだろう。この勝利はミュウに大きな自信をもたらしてくれたようだ。
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