第6話 思い出は上書き保存


 送還魔法を習得するには、まずこの村から出ないといけない。村を出るには、自衛できる力があると証明する必要がある。召喚獣である俺が戦って。


 さて、どうやって戦うか。勝てないまでも、善戦ぐらいはしないと認めてもらえないよな。


「死んだら大丈夫って聞いたけど、どこまで大丈夫なんだ? 例えば骨折して死んだとして、生き返る時には骨折は治ってるのか?」


「はい、元に戻ります」


「凄い仕組みだな」


 ミュウは少しだけ上機嫌になる。ゆっくりしたペースで説明を始めた。たぶん聞いたことを思い出しながら話してるんだろう。


「召喚魔法というのは元々の肉体を呼び出してるわけじゃないらしいんです。召喚魔法を使うと、この世界と召喚獣がいる世界が繋がって、二つの世界の間のどこかに肉体が保存されるんです。そこから実体化させるから怪我の心配せずに何度でも呼び出せるんです」


 世界のどこかクラウドに俺のデータが保存されているから、データが破壊されても、もう一度ダウンロードすれば元に戻る、そんなイメージか。しかも記憶は受け継がれると。でもそれだと俺が筋トレしたとしても筋肉は残ったりはしないよな。そこは召喚士との絆を深めて強くなってく感じか。鍛えた直後に保存とかできればいいんだけど。


 ちょっと気になったんだけど、召喚士は本当に別の世界の生物を勝手にアップロードできるんだろうか。さすがにそれは凄すぎてできない気がする。下手したら俺の世界に影響を与えるわけだし。そうじゃない気がするな。話を聞いた限りじゃ、なにかがトリガーになって召喚獣側からアップロードされるはずだ。……そうか。それが死か。 俺は実際に死んだわけじゃないし、本当のところは分からんけど。


「色んな世界で死んだ奴がいて、その中から俺が選ばれた。たぶん新着死亡者一覧ページとかに俺のプロフィールが載ったんだろう。ミュウが召喚魔法を使ってダウンロードした。恐らく限定一名のダウンロード権! 俺を選ぶなんて。ミュウ、君はなんて幸運なんだ!」


「言ってる意味は全然分からないけど凄い自信。私にもこのくらい自信があれば良かったのに……」


「まあな。よし、まずは一度ケルベロスと戦ってみよう。案外、見掛け倒しかもしれないし」


「はい! なんだかやれそうな気がしてきましたね」


 んなわきゃない。でも俺がポジティブに行かないと。この娘は思考がマイナスに向いている気がする。それだと俺の能力が落ちてしまう。これって召喚された側が気遣うことじゃないよ、絶対。

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