第5話 肉を食べて仲良くなろう


「とりあえず話は理解した。で、どうしてミュウは今も村にいるんだ? 母親を探しにいけばいいじゃないか?」


「そんなことできません。村の外はモンスターがいますから。身を護る手段がないとすぐに死んでしまいます」


 なるほどね。それで召喚魔法を勉強して、俺が召喚されたわけか。


「モンスターって、どのくらいヤバイんだ? 俺が勝てるのか?」


「大丈夫です。召喚士がよび出した召喚獣は、常時補助魔法バフがかかって基本的な能力が強化されますから。いつもと違ったりしませんか?」


「全然」


 ミュウは思い当たるところがあるのだろう。口を押さえて思案している。


「……やっぱり」


「やっぱり?」


 ミュウがなんだか俺をにらんでいるような気がする。


「……あの、考えをまとめてる最中なんで急かさないでもらえます?」


「それなら『やっぱり』なんて思わせぶりなセリフを吐くなあー!」


「ご、ごめんなさーい」


 俺の反撃を喰らって、ミュウがしおしおになっている。ちょっとやりすぎたか。


「で、何がやっぱりなんだ?」


 ミュウが椅子に座り直して説明を開始する。


「召喚獣の能力は、召喚士との関係で決まるんです。信頼関係を構築できてないとダメなんです。きっとそのせいです」


「それってつまりは俺がミュウを信頼してないせいか? 心を開いてないせいか?」


 ミュウが深く頷いた。だとすると、今こうして話してるのも役に立つってことか。


「先生が言ってました。人間型の召喚獣は信頼を築くのが大変だって。でもそれだけじゃないと思います。私の意志の力が弱いせいです。召喚士は召喚獣に対して自信をもって強く命令しないとダメなんです。そうじゃないと召喚士の補助魔法バフが召喚獣に効きにくいし、酷い時には命令を無視されちゃうんです」


 そういえば、いきなり戦えとか言われてたっけ。ケルベロスと。無視したけどな。なるほど、ミュウが弱気な態度で接してきたから拒否できたのか。性格的に召喚士に向いてないんじゃないか? ジェントルマンの俺はそんなこと言わんけど。


「私が村から旅立つには、門番さんの召喚獣であるケルベロスと戦って力を証明しなくちゃいけません」


「証明できなければ村から出ることすらできない規則ってわけか」


「はい、そういうことです」


 移動を制限するってよりは、自分で身を守れない者を守る意味合いが強そうだな。でも村を出ないと、文字を読める人を探すこともできない。困ったな。結局は俺が戦わないとダメなのか。自信はあるけど、色々と情報は欲しいな。


「そういえばミュウの友達はどうだったんだ? ケルベロスと戦って認めてもらえたんだよな。どうやったんだ?」


「あっ」


 ミュウは何かを思い出したのか、急いで地下室に向かった。数分後、厚手の服を脱ぎながら、ミュウが戻ってきた。氷室ひむろにでも行ってきたんだろう。手に何かを持ってきている。


「私、思い出したんです。シャイラちゃんはこうしてたって。はい、どうぞ。食べて下さい」


 そう言って、ミュウが俺に差し出したのは何かの生肉だった。いや、生肉をそのまま食えって言われても困るんだが。ミュウは食べたそうにしてるけど。


「おかしいですね。シャイラちゃんの召喚獣は喜んで食べてたのに」


「お腹が減ってないせいかもしれないぞ」


「そっかぁ。それじゃあもったいないから私が食べちゃってもいいですか?」


 俺が頷くとすぐにミュウは生肉にかじり付いた。意外にワイルドだぜ。


 きっと、生肉食はこの村では普通のことなんだろう。ミュウは狭い世界で生きてきて、俺も普通に食べれると思ってたんだろう。でも俺の繊細な胃はきちんと消化してくれないと思う。それでもミュウの気持ちはちょびっとだけ伝わってくる。なんだか身体が軽くなった気がした。生肉を食べるつもりはないけどな!

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