首絞め少年A

凪風ゆられ

第1話

 傘を忘れてしまったので教室に戻ると一人の男の子が座っていた。

 よく見てみれば、それはまるで芸術品のように綺麗に腕を畳み空いた手で首をしめている。ここからでは力が入っているのかは確認できないが、死のうとしていることだけは分かった。


「なにしてんの?」

「首絞め」

「こんな雨の日に?」

「うん」


 正直彼が誰なのかは分からない。クラスメイトなのか、他クラスのやつなのか、はたまた不法侵入者なのか。

 私と話している間も掴んだ手は離さないでいる。


「君は何をしにきたの?」

「傘を取りに。ほら雨だし」


 窓に雨粒が当たり心地よい音が聞こえてくる。

 こんな雨の日に自殺なんて気分が悪くならないのだろか。いや、そもそも首絞めをしている時点で悪いも何もないのかもしれない。


「痛くないの?」

「痛いよ。これが気持ちいいって言う人がいるけど、ああいう人たちは変態だね。これから死ぬのに気持ちいいとかふざけているのかと、僕は思うよ」


 よくしゃべる子で興味がないわけではないけど、そろそろ帰らないと親に叱られてしまいそうだ。厳しいというのは実にめんどくさい。

 傘立てから自分の傘を取ると、彼は傘を持っているのかふと疑問に思った。自殺志願者に聞くのもどうかと思ったが、失敗して帰ることになった困るかもしれない。


「傘持ってんの?」

「ううん。今日は家に置いてきちゃった」

「じゃあこれ使う?」


 彼が座る席に近づき傘を引っかける。黒の制服は教室が暗いせいで更に真っ黒だった。


「いいの?」

「いいの。次来た時返してくれれば」

「そっか」


 私は適当にカバンを盾に走ればいいか。怒られそうだけど、これくらいなら耐えれないこともない。

 「じゃ」と彼に声を掛け教室を出ようとする。


「首に跡が残ってるけど、ちゃんと冷やした?」

「……よく見えたね。他の人のはバレなかったのに。ま、いいか。それじゃ」


 扉を閉め私は帰った。


 それから私は未だ傘を返してもらってはいない。

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首絞め少年A 凪風ゆられ @yugara24

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