魔王、世界を支配する

クロスケ@作品執筆中

第1話 魔王、誕生



 月を闇が食らう時、魔王は世界に生まれ落ちる。



 とある古文書に書かれた一文。

 当初、この古文書を信じる者は誰も居なかった。数多の学者が史実を基にこれを否定し、それを信じた民衆達は古文書に書かれた内容をあざけった。


 だが、古文書が発掘されてから六十年が経過したローリス歴、248年。古文書に書かれた事柄は現実となった。赤と青の二つの月の内、赤い月が突如として世界から姿を消した。



 それから数ヵ月後、西の山脈で大規模な爆発が起きた。その頃からだ、魔物と呼ばれる化け物達が現れ、人々を襲うようになったのは。人々は魔物の恐怖に怯え、姿の見えない神に救いを求めた。


 信仰の対象となった神は世界を救う為、とある国の聖女に神託を与えた。



 異世界から英雄を召喚し、魔王討伐にあたらせよ。



 聖女は神託に従って英雄召喚を行い、そして世界に三人の英雄が召喚された。

《勇者》《賢者》《魔剣士》の称号を持つ者達。異世界から転移して来た彼らには特別な力が備わっていた。


 これは異世界に召喚され、魔王討伐の役目を与えられた英雄達の物語──などではなく、新たに魔王として世界に生まれ落ち、後に世界の頂点に君臨する男の物語である。






 魔王誕生から五年。今や世界の半分は魔王の支配下に置かれていた。

《勇者》《賢者》《魔剣士》の三英雄も必死に魔物から人々を救おうと応戦するが、圧倒的な魔物の数の前に防戦一方。

 魔王討伐どころか、都市の防衛で手一杯の様子だった。


 更に人間達は多方向から攻め込んで来る魔物達に対処する為、戦力を分散せざるを得なかった。

 おまけに魔王の存在を信じてこなかった為、各国の騎士や兵士の実力は最低レベル。もはや英雄達に頼るしか、他に道は無かった。


 その結果、三英雄が不在の都市や街が次々と壊滅状態へとなった。

 多くの者が殺され、生き残った者も理性ある魔物の監視下で奴隷のように扱われた。


 人々は嘆き、苦しみ、やがて一向に自分達を助けに来ない三英雄を恨むようになった。それを知った魔王は実験と称し、とある条件を付け、数名の人間達を魔物達の襲撃に同行させた。


「死ね、クソ英雄どもがぁぁ!」


 すると人間達は、魔物達よりも先に兵士達や英雄に襲い掛かった。その瞬間、魔王が笑みを浮かべる。


「おい、待てって……お前、人間だろ!? 何で人間同士で殺し合わなきゃいけねぇんだよ!」

「うるせぇ! てめぇを殺せば俺達は魔王の支配から逃れて自由になれるんだ!」


 魔王が人間達に付けた条件とは『英雄を一人でも殺せば、殺した者とその者の家族の身柄を解放し、二度と手を出さない』と言うモノだった。


 絶望の中に居た人々に差し出された一筋の光。暗闇の中、その光に群がる羽虫のように人々は我先にと英雄殺しへの名乗りをあげた。


 これにより、魔王軍の勢いは更に熾烈を極めた。人間同士が罵り合い、殺し合う。血で血を争う戦が大地を赤く染め、英雄達も次第に疲労の色を見せ始める。


 それを好機と見た魔王は『四煌天』と呼ばれる四人の幹部の内、三人をそれぞれ英雄達の守る都市や街へと送り込んだ。


 結論から言えば、圧勝だった。

 英雄の内、南のランドラ帝国の帝都・リンドヴォルンを守護していた《魔剣士》の青年は死亡。

 北の街を守護していた《勇者》の少年と西の山脈の近くにある街を守護していた《賢者》の少女は幹部の手によって捕えられ、厳重な拘束のもと、魔王の前へと連行された。




「我が《魔王》デュラギアである。ほう、貴様らが我が生まれたのと同じ時期に異界より召喚されたと言う英雄達か」


 魔王は玉座で不敵な笑みを浮かべていた。赤い髪と瞳、色白の肌。生まれて五年の筈だが、魔法で肉体を変化させているのか、身体は成熟している。


「率直に言うが、我の配下となれ。貴様らも《魔剣士》とやらと同じ運命は辿りたくあるまい?」

「ふざけるな、俺達はお前の──」


 刹那、勇者の首と胴が離れた。

 噴水のように流れ出る血を眺めながら、魔王は勇者それに向け、冷めた口調で言う。


「貴様らに拒否権などない。どうしても拒否したければ、死を覚悟せよ」

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