塔
有澄春人
世界
雲と宇宙の狭間のような世界である。白い塔の壁
私はひたすらに、ただひたすらに、この塔を登り続ける。疲れはない。風は無く、私の
人生に憧れたことはあるだろうか。人の生きる道を見て、羨ましいと思ったことはあるだろうか。私は何も、その感情そのものを否定し、押し潰すようなことはしない。しかし一つ言いたいのは、人生は絶対的なものであるということだ。私の見ている人生は塔そのもの。雲と宇宙の狭間のような空間で、塔の壁伝いにある螺旋階段を、一段一段、着実に上っていく。他者からすれば――例えば貴方からすれば――それは虚しく見えるかもしれない。辛く見えるかもしれない。だが私と貴方では、きっと見えている世界が違う。何が言いたいのかと言えば、人生は相対評価などするべきではない、ということである。一人は星々に包まれた、本物の宇宙を見るかもしれない。一人は
人にはそれぞれ、「自らだけの世界」というものがある。それは現実とは明確に区別される。私の見ている空間は実際には存在しないし、見ることもできない。しかしいつでも、私だけはその世界に入ることができる。何かに疲れた時、決まって私は塔を上るのだ。暗く、風も無ければ星もない塔を登るのだ。ひたすらに目の前にある階段を上るのだ。そこに
風の音が聞こえ始めた。黒は
私が塔を登り始めてから、一五年が経った日のことである。
塔 有澄春人 @suimin_daisuke
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