「蛾と笹舟」「山畠」 森荘已池 1943年 第18回

 今や森荘已池という名前は、宮沢賢治研究の第一人者として聞かれる程度である。そんな評論家が、大衆小説の賞を貰っていたと聞くと意外かもしれない。受賞作のいずれも家族をテーマに据えているが、どちらも川端康成文学賞の素質も充分に持っている(尤も当時まだ存在していない賞だが)。

 「蛾と笹舟」。いつもと変わらない家族の夕食の時間。そこへ突然「私」の妻の甥・謹一が姿を現した。これまで軍に召集され、南方に行ったきり、音信不通であった。彼は両親を早くから亡くしたため、祖父に育てられた。「私」は子供たちを寝かしつけて、謹一が動員していた間に、祖父が亡くなった旨を伝える。

 「山畠」。農業技師の榊原義介と医者の医者の榊原礼三は、駅長をしていた仁吉の家を訪問する。彼の家は農家を営んでいたが、農作業の全てを任せ切りにしていた妻が亡くなり、農地を持て余してしまう。仁吉本人は3人の子供が居る上に、軽い腎臓病を患っていただけに、義介は一家の将来を憂う。

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