第54話 結末はあっさり

 ついにニジナの出番が来た。

 呪いの装備、〈四大精霊の魔法盾〉を構え、中に納まっている剣が抜ける。


 ガチャン! とロックが外れた。

 軽くなった柄を握ると、ゆっくり剣が引き抜かれる。


「シロガネ、ありがとう」

「ニジナ?」

「ここからは私の番だよ」


 ニジナはシロガネが時間を稼いでくれたことに感謝した。

 そのおかげでHPは回復し、盾で最後の攻撃受け止められた。

 これで三度目。そう、三度目の正直だ。


「大丈夫、もう負けないよ・・・・・・・


 ニジナの言葉は重たい。芯があるのではなく、単に強い言葉だ。

 ドクンと脈打つ感覚が伝わると、盾が眩い輝きを放つ。

 その色合いは赤に青・黄色や緑と色とりどり。

 見栄えは最高、映えも最高、けれどそんなものはオマケだ。


「ここからは私達の勝ち・・・・・だから」


 そう言うと、ニジナは剣を引き抜く。

 ついに本懐を示した〈四大精霊の魔法剣〉。

 その色はニジナのことを艶やかに見せる。


「眩しい?」

「ごめんね。すぐに終わらせるから」


 シロガネは顔を顰めた。

 手で顔を覆うと、ニジナは申し訳なくなる。

 前に出てヨロイグマに剣を突き付けると、ヨロイグマも黙ってはいない。


「グマラァ!」

「ごめんね。それじゃ……」


 ヨロイグマは襲い掛かった。

 自慢の爪を振りかざすことはなく、ガブリと噛み付こうとする。

 シロガネも即時反応し、剣を振り翳そうとしたが、ニジナはより早く剣を振るった。


「【四大精霊魔法(超):エレメンタル・スラッシュ】!」


 ニジナがサッと剣を振った。

 すると剣身が虹色に輝き出す。

 とてつもない量の光を放つと、ありえない熱量で剣を熱し、その上剣身が巨大化した。にもかかわらず、重さは一切変わらない。切れ味が増し、そのままヨロイグマの首へと振り切る。


「うわぁ、眩しい」

「グマーーーーーーーーーーーーーーー……」

「ん?」


 ヨロイグマの断末魔が聞こえた。

 まるで空気の抜けた風船のように消えてしまう。

 一体何が起きたのか。シロガネは眩しさのあまり閉じていた瞼を上げると、ヨロイグマは死んでいた。


「えっ?」

「ふぅ、終わったよ、シロガネ」

「終わった? なにが、起きた?」


 訳が分からなかった。

 今の間に何が起きたのか、理解しようにも難しい。

 それだけ圧倒的な何かがヨロイグマの体から上を無くしてしまうと、HPは○になり、見るも無惨な姿でその勇姿を讃えている。


 ガチャン!


 ニジナは盾に剣を納める。

 再びロックが掛かると、ニジナの盾はとんでもなく重たくなった。

 背中に背負い直すと、苦しそうな顔になる。


「ニジナ、一体なにしたの?」

「えっ、普通に切っただけだよ」

「普通に?」

「うん、普通に。私の剣、三回攻撃を受け止めないとロックが外れないでしょ? その代わり、一度抜けたら最後なんだよ」

「最後?」

「そう、最後。どんな強敵も防御力を○にして貫通する攻撃を浴びせるんだ。後、射程距離も長いから、私が相当ミスしないと、外すことはないかも。だから奥の手なんだよ」


 ニジナの装備はとてつもない力を持っている。

 けれど条件もあるので、まともには扱えない。

 四つあるロックの内、三つが外れなければ攻撃力はほとんどなく、できてもタックルを仕掛ける程度。それでも重さで何とかするのだが、不意にシロガネは考える。


(四つ目のロックが外れたら、なにが起きるんだろう?)


 ロックは何故か合計で四つもある。

 けれど今回外れたのは計三つ。

 最後の一つが外れた時、何が起きるのか楽しみだが、シロガネはそれ以上のことを思わない。


「……」

「どうしたの、シロガネ?」


 代わりにシロガネの視線は倒されたヨロイグマに向く。

 体が粒子になり始め、今にも消えそう。

 アレだけの強敵も、鎧のように硬化した体毛も、今ではシナシナに萎れていた。


「なんでも無い」

「なんで無いの?」

「うん。それより、これでよかった?」


 漠然とした問いだ。ニジナは悩んでしまう。

 しかしヨロイグマは無事に倒せた。

 ドリップハニーの味方をしてしまったけれど、それを悔いても仕方がない。


「私はよかったと思うよ?」

「そう?」

「うん。あのまま逃げてても、ヨロイグマが私達を狙わない理由にはならないからね」

「確かに」

「でも、勝ててよかったよ。勝てないと思ってたから」


 ニジナは本音を吐露する。

 ヨロイグマと対峙した時、流石に終わったと思った。それは人間としての性だ。

 それを押し殺し勝利したこと。命のあること。道の上に潰れた蜂達を通して感じ取る。


「あの蜂達は?」

「もう、ね」

「そっか。ごめん」

「シロガネが謝ることじゃないよ」


 死んだ蜂達は帰って来ない。これが自然だ。

 シロガネは陰を落としてしまう。

 それでもニジナに諭され、シロガネは立ち直ると、正面を見つめる。


「蜂達が襲って来ない」

「そうだね。平和だね」

「平和、これが平和、そう、平和?」

「悟りを開かないで。そっちに行かれたら、私付いて行けないよ!」

「ごめん」


 ドリップハニー達は襲って来ない。

 つまりは敵対されていない。

 これは好都合とばかりに、そそくさとその場を離れる。


「帰ろっか」

「うん」


 結局、シロガネとニジナは目的を果たした。

 後、ゲームの中とはいえ命のやり取りを見た。

 自分達が淡々とこなしていたことが、壮絶と目の前で繰り広げられ、なんだか少し悟ってしまった。

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