第53話 いよいよ、私の出番
シロガネの活躍は留まるところを知らない。
ヨロイグマを相手に、善戦どころの騒ぎじゃない。
圧倒的に追い詰めると、ヨロイグマは防戦一方だった。
カキンカキンカキーン!
三連撃が一回に聞こえる。
木の葉を震わせ、シロガネの剣捌きが止まらない。
休むことなく軽いが確かな一撃を加えていくと、ヨロイグマは小さくなる。
「グマァ」
「それだけ?」
シロガネはつまらなそうにヨロイグマに話し掛ける。
言葉の意味を理解しているとは思えない。
けれど冷めた目から放たれる異様な感情に、ヨロイグマは恐怖する。
「グマララァ」
「蜂達を落としておいて、それ?」
シロガネが戦う理由は正直ほとんど無い。
それでもニジナの望みを叶えようと奮闘する。
悪気のない本心の言葉が無情に注がれると、ヨロイグマは腕を振り払う。
「グマラァ!」
シロガネは咄嗟に避けると、容易く距離を取った。
チラリとニジナに視線を飛ばし、まだ回復中だと知る。
もう少し時間稼ぎが必要。そう思い飛び出そうとするが、ヨロイグマを攻撃するのはシロガネだけではない。
ブーン!
耳鳴りのような羽音が真横を過ぎる。
咄嗟に視線をこちらも飛ばし、正体を確かめる。
やはりと言うべきか、ドリップハニー達が仲間を集め、再起を図っていた。
時間が掛かったが、再び群れを成すと、お尻の針を突き出して一斉蜂起する。
ブーン、ブーン、ブーン、ブスッ!
ブスッ、ブスッ、ブスッ!!
ズキッ、ズキッ、ズシッ!!!
痛々しい音がヨロイグマを取り囲む。
見ているだけでも自分が射されているような気分になり、シロガネは巻き込まれないように離れる。
ドリップハニーは動いたシロガネに興味が無い。それ所か真後ろを通り抜け、更に仲間がヨロイグマに襲い掛かる。
「なにこれ?」
「きっと、ドリップハニー達は分かっているんだよ。シロガネが必死にヨロイグマから自分達を守ろうとしていることに」
「虫が?」
「虫だからって、なんにも考えていない訳じゃないと思うよ? まあ、本能が九割だとは思うけど……」
ドリップハニー達は確かに本能的に宿敵と対峙していた。
自分達の巣を護ろうと必死だ。
それでもシロガネとニジナには一切手を出さない。もしかすると、理解しているのかも? と想像力を発揮した。
「これ、邪魔しない方がいい?」
「うん。流石に自然の摂理は守ってあげようよ」
忘れてはいけないこと。それはヨロイグマも生きていること。
ドリップハニーを狙うのも本能。巣を護るのも本能。
だから人間(プレイヤー・NPC)が変に介入してもいけない。何せ、自然に立ち入っているのは自分達なのだから。
「それじゃあ帰る?」
「そうだね。それがいい……ん!?」
シロガネとニジナは武器を仕舞って帰ろうとする。
けれどニジナの足がピタッと止まる。
視線を釘付けにされてしまうと、シロガネもニジナの視線を追う。
「どうしたの、ニジナ? なにかあった……あっ」
「ヨロイグマがこっち来てる!?」
ヨロイグマはドリップハニーの群れに襲われていた。
何度も何度も刺されてしまい、苦しんで藻掻いている。
そこまで毒は強く無い筈。それでもあの数だ。藻掻くのも分かる。
「な、なんでこっち来てるの!?」
「分からない。ニジナ、下がって」
ヨロイグマはドリップハニーの群れを振り払う。
完全に興味が失せたのか、何故かシロガネとニジナに襲い掛かる。
四肢を使って地面を蹴り、真っ直ぐ怒りの眼を剥き出しにする。
決して視線を外すことは無く、涎まみれの口をあんぐりと開けていた。
「グマラウゥ!」
「くっ!」
ガキ―ン!
ヨロイグマは大きく口を開け、鋭い牙を突き付ける。
シロガネはニジナを守ろうと、前に立って剣を構える。
剣身がヨロイグマの牙を受け止めると、耐えるのがやっとだ。
正直油断していた。シロガネは自分を咎めた。
けれど振り返っても仕方が無い。
涎まみれなヨロイグマは真っ赤な瞳に殺意を抱くと、今にも剣を折ってしまいそうだ。
「グマララァ!」
「くっ、重い……」
「シロガネ! えいっ」
シロガネは重量感に押し込まれていた。
体重差では絶対に適う訳が無く、腰が引けて膝が砕けそうになる。
苦しい顔色を浮かべていると、ニジナは回復を終え、盾を構えてタックルした。
ドーン!
「グマッ!?」
「やった、効いた!」
今までとは明らかに勝手が違う戦い方。
まだ慣れてはいないけれど、効果的な戦い方を模索中。
その一つが重たい盾のデメリットを活かした戦術。自分自身が砲弾になって突撃すると、それなりにダメージを与えられた。
「ニジナ!?」
「シロガネ、大丈夫?」
「うん、大丈夫。だけどヨロイグマは……」
「そうだよね。うわぁ!」
ガキ―ン!
油断も隙も無い。ヨロイグマは立て続けに爪を立てた。
大きく振るって空気を掴むと、ニジナの盾に三回目の攻撃を当てた。
その瞬間、カチッと何かが外れる音がすると、ニジナはニコッと笑みを浮かべるが、代わりには弾かれてしまった。
「ニジナ!? やっぱり私が倒す」
「待って、シロガネ」
「ん? ……ん!?」
ニジナが吹き飛ばされたのが気に食わないのか、シロガネは再び攻撃に入る。
無心を極めると、剣の柄を強く握り締めた。
飛び出して怒りMAXのヨロイグマに剣を叩き付けようとするが、ニジナがそれを制した。
立ち止まって振り返ると、ニジナの様子がおかしい。
重たい筈の盾が妙に軽そうで、おまけに何故か光っている。
瞬き厳禁なニジナの姿に慄くと、当の本人のニジナは目の色を変えた。
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