第14話 バルバラエにやって来た!

 シロガネとニジナの二人は、フォンスに戻って来た。

 けれど休んでいる暇は無い。

 シロガネとニジナには目的ができたので、早速行動を開始する。


「それじゃあ、どうするの?」

「やっぱり、ノープランだったんだね」


 シロガネは何も考えていなかった。いつも通りのことに、ニジナは呆れてしまう。

 けれどニジナは想定内だったので、シロガネの手を取った。


「それじゃあバルバラエに行ってみよっか」

「バルバラエ?」

「うん。フォンスのすぐ近くにある街なんだけど、そこならたくさんの情報が集まっていると思うよ」


 バルバラエ。シロガネは初めて聞く名前だった。

 ましてやフォンスも碌に散歩していないのに、いきなり違う町に行く。

 少し突飛だったが、シロガネはニジナを信用し、早速バルバラエに行ってみることにした。


「それじゃあ行こう」

「行くって、徒歩で?」

「なに言ってるの? バルバラエは私が一度行ったことがあるから、転移装置ポータルに登録しているんだよ。それじゃあ、行こう」


 ニジナはシロガネの手を掴んだ。

 ギュッと温かいものが互いに伝わると、フォンスに設置されている転移装置に触れた。

 特定の場所を選択し、ニジナはシロガネを連れて飛ぶと、一瞬でフォンスを離れた。



 シロガネとニジナはフォンスから離れた。

 気が付けばフォンスの美しい景色は一変する。

 代わりに映り込むのは、少しくすんだ色、何処か馴染みのあるニオイ、嫌な感じは一切せず、むしろ現実へ引き戻される感覚が伝わった。


「ここは?」

「ここがバルバラエだよ! どうかな?」

「うーん、どうしてバルバラエなの?」

「えっ、意味は無いよ」

「無いんだ……ニジナ?」


 ニジナはバルバラエの中を歩いて回る。

 シロガネはニジナの後ろをチョコチョコ付いて回る。


「ニジナ、何処に行くの?」

「バルバラエはね、プレイヤーがほとんどの町なんだよ。どうしてだと思う?」

「ん? 知らないけど」


 ニジナのシロガネへの質問を、速攻で打ち消した。

 あまりにも一発で切られてしまうと、ニジナはムッと表情を浮かべる。

 けれどすぐに表情を変えると、シロガネの腕を掴んだ。


「呪いの装備の情報を集めるなら、ちょっとコアでダーティーでディープな場所に行くしかないかもね。シロガネに見せてあげる、バルバラエの面白い所に」

「面白い所?」

「うん。シロガネはバルバラエのバラエティ豊かな情報を知らないでしょ?」

「あっ、だからバルバラエなんだ」


 ようやくシロガネはバルバラエの由来が分かった。

 バラバラでバラエティ豊かな情報の町。

 だからこそ発展したのだろうと、想像するだけで少しだけワクワク……しなかった。


「それじゃあ私に付いて来て」

「うん。でも、何処に行くの?」

「バルバラエの深い所。えっと、この路地を入って」

「路地?」


 バルバラエはあまりNPCが歩いていない。

 ましてやプレイヤーの姿もチラホラしか見えない。

 そのせいか、活気はあまりないように感じられるが、シロガネは路地に一つ入ると、目を見開いた。


「どうしたの、シロガネ?」

「なに、この雰囲気」

「この雰囲気? ああ、これがバルバラエだよ」


 路地の裏側はプレイヤーが何人もいた。

 まるで情報屋で、壁にもたれかかる形で、男性プレイヤーが待機している。

 しかもシロガネとニジナが立ち入ると、視線をジロッと向けられた。警戒するべく、シロガネは威圧的な態度を取る。


「お前、初めてか?」

「……私のこと?」

「見かけないからな。ここから先は、深いぞ・・・

「深い? 一体なにが」


 男性プレイヤーの一人が、シロガネに話し掛ける。

 渋く低い声で警告すると、シロガネはポカンとしてしまう。

 だが、ニジナが隣で笑顔で佇むと、シロガネの代わりに返事をした。


「いつもありがとうございます、ワッフルマフィンさん」

「なんだ、ニジナの友達か。じゃあ問題無いな」

「はい! 迷子にならないように気を付けます」

「ふん、気を付けないよ。この先は、広くて深いからな」


 ワッフルマフィンと言う可愛い名前をした男性プレイヤーは、シロガネに最後まで忠告をする。けれどニジナの存在があれば、その不安も何処かに消えてしまう。

 シロガネの手を取って、ニジナが先導すると、待機していたプレイヤー達も避けてくれた。

 この先に一体何が待っているのか。シロガネは興味が……無かった。


「ニジナ、今の人達は?」

「この辺りを持ち回りで見張っている人達だよ。この先は公認の市場だから」

「公認の市場? 非公認じゃなくて?」

「公認だよ。バルバラエは情報の町。この町には、色んな路地があって、その路地の先には、必ず情報に繋がっている。だからたまに迷子になっちゃう子もいるから、顔と名前を覚えて万が一に備えているんだよ」

「へぇー」


 これぞプレイヤー同士の信頼が成せる技。シロガネにはそう感じた。

 けれど一体この先にはどんな世界が待っているのか。

 先程までは無かった好奇心が渦巻き返すと、路地の終わりには階段が待っていた。


「この階段を下りるね」

「階段の先?」

「うん。この先に待っているのが、私達の情報の入口だよ」


 ニジナは楽しそうだった。

 シロガネはそんなニジナに連れられ階段を下りる。

 先が一向に見えない闇の底。心拍数が上がることは無いけれど、ニジナと繋いだ手は心地が良かった。

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