EX1 大精霊の騎士様
第13話 少しは強くなれたかな?
「はっ!」
シロガネは森の中を走っていた。
敏捷性(AGI)が高いおかげ、シロガネの動きは機敏だ。
「逃がさない」
目の前を逃げるのは一頭の鹿。
しかしただの鹿ではない。
目が真っ赤に染まり、非常に危険な状態だ。
「このままじゃ追いつけない。それなら!」
シロガネは木の幹を蹴り上げる。
もちろん、木の方がしっかりと地面に接している。
シロガネの軽い蹴り一発では、たとえ二発でも、三発でもびくともしない。が、そんなのは百も承知だ。
「それっ!」
シロガネが本当にしたかったことは当然別にある。
木の幹を蹴り上げると、軽く三角跳びをしてみせた。
「ここからなら」
一気に高い所まで上がってみせる。
まるで空でも飛ぶように駆け上がると、鞘から武器を抜く。銀色に眩い〈白銀の剣〉だ。
「よく見える!」
シロガネは重力に身を任せた。
眼下には一頭の鹿。いや、このゲームでは一匹の方が都合がいい。
一匹の鹿は角が異常に発達していた。
触れれば爆発する、奇妙な実を吊るしている。
その名も、バクベリディアー。
「ビャア!」
バクベリディーは逃げ出す。
猛スピードで地面を蹴り込む。
爪が地面を抉り、土を巻き上げると、歩き辛い筈の地面を難なく駆けた。
「逃がさない」
シロガネは体を大きく使う。
手足が長く、充分な体躯を利用すると、〈白銀の剣〉を突き付けた。
「そこっ!」
シロガネは逃げるバクベリディアーの首筋に剣を突き付けた。
否、叩き込んだと言ってもいい。
とんでもない威力でグサリと突き刺すと、バクベリディアーは暴れ回る。
「ビャァァァァァァァァァァァァァァァ!」
「ふん」
絶叫を上げ、首をブンブン横に振る。
今にも崩れてしまいそうな体を、脚を、無理やり動かす。
しかしシロガネは一切躊躇しないで済ませると、バクベリディアーの首を飛ばした。
「ビャ」
バクベリディアーの断末魔。
それが最後の遺言になるが、誰も解読できない。
「終わり?」
バクベリディアーは地面に倒れた。
ピクリともせず、体が粒子に変わる。
空へと舞い上がり、完全に腐敗する前に崩れてしまう。如何ならシロガネは理解していないが勝った。
「シロガネ、お疲れ様」
「ニジナ。うん、お疲れ?」
そこにやって来たのはニジナだった。
敏捷性(AGI)が低いせいか、追い付くまで時間が掛かった。
ここまで走って来たものの、シロガネとバクベリディアーには追い付けなかったのだ。
「うわぁ、もう倒しちゃったの?」
「うん。倒したけど」
「そっか。やっぱりシロガネは凄いね。装備も調子良さそう?」
「そこそこ慣れた。レベルも上がった」
バクベリディアーを倒したことで、シロガネのレベルは一つ上がった。
ステータスも多少だが、変化している。
■シロガネ
性別:女
LV:6
HP:80/80
MP:45/45
STR(筋力):56
INT(知力):45
VIT(生命力):43
MEN(精神力):47
AGI(敏捷性):61
DEX(器用さ):44
LUK(運):46
装備(武具)
メイン1:〈白銀の剣〉ATK:X
メイン2:
装備(防具) 計DEF:X
頭:〈白銀の鎧兜〉:OFF
体:〈白銀の鎧上〉
腕:〈白銀の鎧腕〉
足:〈白銀の鎧下〉
靴:〈白銀の鎧靴〉
装飾品:〈白銀のフレアスカーフ〉
スキル(魔法を含む)
【見切り】【受け流し】【パルクール】【気配察知】
ユニークスキル
【白銀装甲】
「ありがとう、シロガネ。おかげで私も強くなれたよ」
「そうなの?」
「うん。【連携経験値(小)】のおかげだよ」
「れ、んけい?」
ニジナはスキルお化けだった。
たくさんのスキルを持っていて、シロガネとパーティーを組んでいるおかげか、一切先頭に関わっていないにもかかわらず、ニジナにも経験値が入っている。
しかもその分配量はシロガネよりも少し多いのが特徴で、絶対にシロガネがニジナにレベルで追い付くことは無いのだ。
「でもいいなー、呪いのアイテム。私も装備変えたいな」
「変えたいの?」
「うん。今の装備じゃいずれ限界も来ると思うんだ。それになにより、シロガネに迷惑が掛かっちゃうから」
「ん?」
シロガネはポカンとしてしまうが、ニジナは分かり切っていた。
“呪いの装備”は強力だ。何かを縛る代わりに、なにか強力な力を得られる。
その共通項として、武器や防具のスペックが
だからこそ、今の装備じゃ出費も大きく、限界も近いことを予期していた。
「私も呪いの装備にした方がいいよね。でも……」
「ニジナが欲しいなら手伝う」
「えっ、いいの?」
「もちろん。ニジナがしたいなら、私も手を貸す。それだけ……ダメ?」
シロガネはニジナに手を差し伸べる。いつだってシロガネはニジナに支えられてきたからだ。
いつもの名残と言うべきか、まさにルーティーンの様な関係が築かれると、シロガネの手をニジナはにやけ顔で取る。
「ありがとう。それじゃあ……」
「頑張る」
「が、頑張るだけ?」
「うん」
せっかくやる気になったシロガネは能天気だった。
いや、ニジナは気が付いている。
シロガネの強い芯ある瞳の奥には、何も分かっていなかった。
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