第11話 呪いの装備

「あはは、凄い、凄い凄い! 凄すぎるよ、シロガネ!」


 不安そうなシロガネを目の前にして、ニジナはつい笑ってしまった。

 なにせニジナはシロガネが身に纏う装備を知っている。

 だからだろうか、何も知らないシロガネと対比した。


「ニジナ?」

「あはは、ごめんね、シロガネ。でもまさか、そっか、そっかー。そうだよね、そう言うこともあるよね。でもまさかシロガネが、このタイミングで、凄いなー」

「どういうこと?」


 シロガネは本当に何も分からない。

 だからだろうか、ずっと不安で足が竦む。

 こんなシロガネは本当に珍しく、堂々とした感じが一切ない。


「うんとね、シロガネが着ている装備は、多分“呪いのアイテム”だよ」

「の、呪い?」


 あまりにも奇々怪々なワードが飛び出した。

 突然の呪術チックな言葉には、シロガネは首を捻る。


「うん。“呪いのアイテム”の中には色々なものがあってね、多分シロガネの手に入れたそれは、“呪いの装備”だよ」

「呪い……確かに、そんな記載がされてる」

「マジ!? じゃあ間違いないよ。凄い凄い、なにも無い洞窟かと思ってたけど、そんなのあったんだ! いやぁー、シロガネって豪運」


 ニジナは一人興奮すると、シロガネが置いて行かれる。

 ソッと足を前に進め、ニジナの前にシロガネがやって来る。

 腕を掴み、目と目を合わせた。ジッと見つめられるが、ニジナは顔色一つ変えず、首を捻ってしまう。


「シロガネ?」

「もっとちゃんと説明して」

「それ、シロガネが言うの?」

「……ごめん」


 シロガネは訳が分かっていない。

 だからこそ、シロガネは知らないことを知っている人に堂々と訊ねる。


 ニジナの目を見ると、やっぱり知っている。

 強い意識を感じ取ると、ニジナは言葉を選んで説明する。


「まず、呪いのアイテムは“呪い”を受けた特殊なアイテムで、一度手にすると、強制的に所持品になってしまうの」

「強制的って、それじゃあ私は?」

「呪いの装備かな。武器や防具に呪いが掛かっているものだよ。だから、手にした瞬間に強制的に装備されて、装備変更が自由にできなくなるんだ」

「……難しい」


 シロガネはニジナの説明が余り頭に入って来ていない。

 ボーッと意識が遠ざかると、とりあえず頭の中で簡潔にまとめる。


「つまり、外せない装備?」

「正解! だけど、呪いの装備は外せない代わりに、様々な効果が付与されるんだよ!」

「効果?」

「武器とか防具とか、なにか書いてない? 利益メリットになりそうな効果」

「利益……あっ、“物理攻撃以外を受け流す”だって」

「……ああ、使い所選びそうだね」


 ニジナの言う通り、シロガネの装備には利益になりそうなものが書かれている。

 けれどシロガネの言葉に、ニジナは微妙な反応をした。

 あまりにも異質な文言で、使い勝手が悪そうだったのだ。


「それじゃあ、ダメ?」

「ダメじゃないよ。呪いの装備か、いいなー」

「いいの?」

「うん。あーあ、一気に私の方が貧弱になっちゃったよ」


 ニジナはシロガネが新しい装備を手に入れて落ち込む。

 肩を落とし落胆すると、シロガネも少し悲しくなった。


「ごめんね」

「大丈夫だよ。それよりどうする? もうここに用は無いの?」

「うん。モンスターは倒したから」

「モンスター!? ねぇ、それってその装備に関係があった?」

「シルバーナイトだった。だからこの装備は、〈白銀〉シリーズ?」


 シロガネは確証が無く、不安そうに答える。

 しかしニジナはシルバーナイト=〈白銀〉シリーズは理に適っている。

 コクリと首を縦に振ると、納得したような顔になる。


「それ、多分合ってると思うよ」

「そうなの?」

「うん。呪いの装備は、ほとんど場合で、守護者のモンスターが守っていて、そのモンスターの由来があるものらしいからね。実際、呪いの装備は、守護者に認められないと、手に入れられないらしいから」

「へぇー。えっ?」


 シロガネはニジナの言葉を聞き納得した。

 けれどすぐに愕然としてしまう。

 なにせ、シロガネはシルバーナイトに認められたからこそ、この装備を手に入れることができたのだ。


「それじゃあ私は……」

「認められたってことだよ。それより、シロガネ。右ルートに転移装置があったよ!」

「本当?」

「うん。いつでも帰れるけど、どうする?」


 ニジナは右ルートに転移装置があることを教えた。

 もうこれ以上、この洞窟にいても意味が無いのなら、このまま街に帰るのがいい。

 けれど、もう少し滞在したいのならと、ニジナはシロガネに委ねるも、応えは即答だった。


「帰ろう、ニジナ」

「うん。それじゃあ、帰ろっか」

「うん。あっ、ちょっと待って……ありがとう」


 シロガネはニジナを先頭に左ルートから戻ろうとした。

 しかし一度立ち止まり、踵を返して振り返ると、今はいないシルバーナイトに感謝を伝える。

 こんなに楽しめたのは、シルバーナイトのおかげだからだ。


「シロガネ?」

「うん、すぐ行く」


 シロガネはすぐさまニジナに付いて行く。

 隣に立つと、まるで姫を護衛する騎士の様。

 そんな印象を強く受けると、白銀の装備が暗闇の中で映えた。

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