信心に欠ける人にも祈るときがある

世楽 八九郎

なぜなら我々はどこまでも愚かで赦しを必要としているからだ

光あれ


初めに福音がもたらされた


そう言い伝えられてきた


それに続く私がそこへ至る瞬間が訪れることはついぞないのだろう


あまりに尊いその深さと速さに私は追いつけない


それでもいい


そう思いながら願わずにはおられない


私の世界には痛みが止まない


知識は私を懊悩させ、頭蓋を軋ませる


この身体は朝に夜にと日毎に泣き、いまも悲鳴を上げている


そう、まさにいま私の内と外とを問わず、捻じれ、苦痛を叫び描いている


悪魔が我が前門につるはしを振るいたてる


天使は我が後門をそのうちからノックしている


まるで始まりを告げるように まるで終わりを告げるように


終わりとは地獄であるとわらうように 始りとは天国だとほほ笑むように


悪魔は真実を述べ、天使もまたペテン師ではない


この嘆きは嘘ではない、この苦しみは絵空事などではない


我々は従うべきなのだ


この苦しみは解き放たれるべきものだ


さりとて我々は許されていない


私も私にそれを許しはしない


尊ぶべきもの、私の、貴方の、我々の尊厳とは人の歩みの果てに輝く王冠なのだ


汚されていいものなどではない、断じてそのようなものではないはずなのだ


だから私は許されない


我々は許さない


天邪鬼な我々はどこまでも愚かしく、あまりに素晴らしい


命は儚い綱渡り


死とはどこまでも優しく黒い安寧


だから、どうか我々に、貴方に、私に、赦しをください


光りでなくともいい


どうか私を赦してください

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信心に欠ける人にも祈るときがある 世楽 八九郎 @selark896

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