第2話 最近の流行って?

 今日も生徒会室は平和であった。凛と葵。各々が好き好きに空間を使い、そして時たまこうした会話が起こるのであった。


「問題! パンはパンでも食べられないパンは何でしょう!」

 葵は暇だった。ベタななぞなぞでもして暇を潰そうとしていただけである。

「国家公務員一般職」

「なぞなぞなんだよこれは! どうしてそんな答えになるの!」

「パン職って言うじゃない」

「そうだけど……」

「国家のジャムおじさんね」

「思いついたこと喋ってる? というか謝って! 全国の国家公務員一般職の方々に謝って」

「申し訳ございません。謝罪の意を示すために謝ります。葵が」

「私!?」

「部下の失敗は上司の責任でしょ?」

「それは上司側の言葉だよ!」

「ところで答えは何? 私をこのままにしておくと失言を言い続けるマシーンになるわよ」

「AIでももう少し配慮するよ。ところで何読んでいるの? オイディプス王……?」

「そうよ」

「どんな本なの?」

「『オイディプス王』(またはオイディプース王; -おう、ギリシャ語:Oἰδίπoυς τύραννoς, ラテン文字表記:Oedipus Tyrannus)は、古代ギリシャ三大悲劇詩人の一人であるソポクレスが、紀元前427年ごろに書いた戯曲。テーバイの王オイディプスの物語を題材とする。ギリシャ悲劇の最高傑作であるのみならず、古代文学史における最も著名な作品であり、後世に多方面にわたって絶大な影響をもたらした。

ソポクレスにはテーバイ王家に材をとった作品が他に2つ現存している。すなわちオイディプスの娘が登場する『アンティゴネー』と最晩年の作品である『コロノスのオイディプス』である。これらを総称してテーバイ三部作というが、これらは本来の意味での三部作ではなく、別々の機会に書かれたと現在の研究では一般に考えられている」

「Wikipediaじゃん! よく覚えたね」

「最近Chat GPTを脳に実装したのよ」

「ものすごく怖いよ……というかChat GPTは割合正確性には欠けるという話だからどちらかというと凛ちゃんのはSiriだよ!」

「SiRinということね」

「上手くないよ?」

「座布団100枚、もしくはデイリーランキングに載せて頂戴」

「何? pixivの話?」

「違うわ、私の生息場所は主にはてな匿名ダイアリーよ」

「友達がやって欲しくないSNSランキング第1位だよ。高校生がそんな所行っちゃいけないの! インスタだけでいいの!」

「はてなにタピオカの感想をあげてるわ」

「インスタにあげればいいじゃん」

「今の時代画像一つで出身高校、年齢、その他の個人情報が特定される時代よ。安易にインスタにはあげられないわ」

「ネットリテラシーが2ch創世記の人」

「身バレしないようにツイッターのアイコンも猫よ」

「あ、知ってるよ。凛ちゃんの猫かわいいよね。私あんまりツイッターは使わないけど開いた時はいつも癒されてるな〜」

「あの猫はフリー素材よ」

「モラルとかないの?」

「私がモラルよ」

「独裁国家の王族か何か?」

「ちなみに答えは何なの? パンはパンでも食べられないパンは!? ものすごく面白い答えが待っているのよね」

「えー……フライパン、だよ……」

「可愛いから許すわ」

「甘々判定!」

「可愛さは全ての基準を飛び越えるチートカードよ。どれだけタバコを吸ってもパチンコをしても競馬をしても可愛かったら許される。それどころかむしろ賞賛の的なのよ」

「酷い偏見だよ!」

「かくゆう私もやってる! YouTubeで『現役女子高生がポケモンランクマ潜ってみた!』シリーズでコンスタントに10万再生を取っているわ」

「やめなよ!」

「メンバーシップも始めたわ」

「いい加減怒られるよ。うちの高校バイト禁止だし」

「ふふっ、流行に乗ってこそ女子高生というものなのよ、葵」

「凛ちゃんの流行の乗り方は現代社会の邪悪そのものなんだよ!」

「これ、収益で買ったメロンパン」

「メロンパンは収益関係なく買えると思うんだけど」

「一緒に食べましょう。そろそろお昼時よ」

「あ、うん。色々ありすぎて脳がパンク気味だけど……食べようか」

ジャンボメロンパン、そして家から持ってきたお弁当を二人は広げる。生徒会室には初夏の暖かくも爽やかな風が吹き抜け、校庭からは運動部が部活に励む声が聞こえる。これから始まる夏に、特別な期待感を感じてしまうのは決して悪いことではないだろう。葵はそんな事を少しだけ思った。お弁当も食べ終わり、そろそろ帰ろうかと荷物をまとめていると不意にガラッとドアを開ける音が聞こえた。生徒会室のドアが開く音だ。音の方を見ると廊下から顔を半分だけ出した男性の姿が見えた。生徒会の顧問、楢崎先生だった。

「おーい三月凛、いるかー? お前のYouTubeが問題になってるから後で職員室来てくれー」

「……何の話ですか? 楢崎先生。私はYouTubeなんかしてませんが」

「嘘つき!」

「いやぁ私もそう思ったんだがなぁ。校長がチャンネルのメンバーシップ会員だったんだよ」

「なにそれぇ……」

そして日々は続く。この日の夜、葵がツイッターを開いたところ凛のアカウントはものの見事に削除されていた。この感じではYouTubeの方もBANされただろう。流行を追いすぎるのも良くないのかも。凛はそんな事を布団の中で思った。

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