極短小説・泣いた赤鬼・了平の考察w

宝力黎

泣いた赤鬼・了平の考察w

「なに泣いてンだよ?」

 声をかけられて和田美幸は顔を上げた。溢れ出た涙が顎を伝い落ちている。同じクラスで幼なじみの森岡了平は美幸の前に腰を下ろした。放課後の図書室には美幸と了平の二人しか居ない。図書の係はいるだろうが、姿は見えなかった。

「腹が痛いのか?」

「ばか」

「なんだと!」

「違うわよ…」

 美幸は本に視線を落とした。本を覗き込んだ了平が怪訝な表情で美幸を見た。

「絵本?高校生が…」

 美幸は了平を睨んだ。

「泣いた赤鬼――って知ってる?」

 首を横に振る幼なじみに美幸は吐息を零し、かいつまんでストーリーを聞かせた。

「へえ……そりゃあ泣きたくもなるよな」

「あんたでもそう思う?」

「あんたでも――ってのがどういう意味かはともかく、青鬼の気持ちを思うとな」

「青鬼?赤鬼じゃ無くて?」

「赤鬼は、してもらっただけだろ?自分は得ただけだ。青鬼を可哀想に思ったかもしれないが現に赤鬼は得たんだ。胸は厚くなるだろうが感謝して笑顔になれ!得なかったのは青鬼だ。友達も無くし、家も無くした。優しいからきっと赤鬼同様に人間とも仲良くなれたかもしれない。その可能性もなくした。泣けてくるのは青鬼だ」

 口を開けて聞いていた美幸は、ふっと笑った。

「あんたらしいわ」

「だから!あんたらしいってのがどういう意味かって話だ!」

 美幸は本を閉じ、喚く幼なじみを見た。

――誰かが私を好きになって、その誰かを私がちょっと怖がってて、でも本当はいい人で、その人の気持ちを知った了平が悪役を買って出たら……私はどうするんだろう……。

「だからだな!お前が思う赤鬼の気持ちってのは――」

――きっと私なら……。

 静かな図書館に了平の声が響き、姿の無かった図書係が出てきて人差し指を立て、しー!と睨んでいた。

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