「KING。」〜SISUKE覇者の舞台裏〜

沼津平成

第一レッスン

KING

      1


 SISUKE——。その噂で持ちきりになるのは、大晦日も近づいて、地球温暖化が叫ばれても、いよいよ寒くなってきた頃だ。

「おぉ、SISUKEか」

 ある老人が顔を綻ばせた。「水無月さん、どうでしょう……」と、スタッフの声でも聞こえてきそうだ。

 開けるとキィーと高く軋む音がする郵便受けに久しぶりに入ってきた手紙がSISUKEのものだったとは。

「『もしよかったら十二日に北南アラバキ長野問・黄緑山まで来てください。』って、昔と変わってねぇな」思わず音読してしまうほどのSISUKEの幸福を、一度味わい切るまでに70分はかかった。

 やまない雨はない。喜びを味わい切ってしまうと、老人はモップを取り出す。


「さぁ。久しぶりにSISUKEから招集もかかったことだし、気晴らしに掃除でもしますか」


 そういうと郵便受けに向かった。


 水無月薫、1967年生まれ。1989年アラバキ財団設立。2003年5月22日北アラバキ黄緑山でSISUKE初出場。2nd進出。同年9月14日南アラバキの緑青山でSISUKE2回目出場。1stタイムアップ。2004年正月本町SISUKEで⑥に到達し、自己最高記録を更新。2007年の第二回ワールドカップで北アラバキ代表を務め、見事3rd進出の立役者となる。同10月24日SISUKEで3rd進出。同11月、ファイナリストになる。二年のブランクを経て、2009年正月のSISUKEで完全制覇。引退表明。2014年4月に復活するも、2ndでリタイア。それから10年のブランク。今年に至る。


       2


 水無月薫みなづきかおる老人をある一人の青年が訪ねたのは、それから数日後のことだった。俯いていた。微かに見える表情は不安そうな顔で、けれど、

(自分の目の前に、かのレジェンド水無月がたっているのだ)

という感覚とは別の、何かの感覚がそこにあった。

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