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私の幸せについての話をしよう。



「こういうの、話すことってあんまりなかったね」


優の髪の毛は、私と違って柔らかくてふわふわの毛質をしている。梅雨時なんかは広がって大変そうだけど、私は好きだ。


私の幸せ。それは例えば、春のまあるい朝日のことで。出先でたまたま見つけた美味しいお菓子のことで。一つだけ膨らんでいる桃の蕾。講義中の僅かな眠気。柔らかな風。ビルの隙間から覗く真っ赤な夕陽と、ふと見上げた空に見つけた綺麗な星々。

そういうもので、私の幸せは完結していた。友人だって、家族だっていたし。それ以上の幸せなんて、私には分からなかった。


「でも、私は君と一緒にいたいと思ったから」


そしたら、私の幸せの形が少しだけ変わった。

それは、朝起きた時にするいい香りで。優が買ってきてくれたいちごタルトの甘さで。送られてきた花の写真。作ってくれたお弁当。二人で歩く柔らかな午後。真っ赤にそまる君の横顔と、星を見てはしゃぐ帰り道。

そういうものに変化した。


「それにね、私の幸せなんて私が勝手に決めるんだから。他の人なんて、最初から視界にいれてないんだよ」


私は端から、他人なんてどうでもいいのだ。

周りの子は皆男の子と付き合ってる。結婚した友人がいる。ああそうですか、好きにすればよろしい。私はこの子といられればそれでいいのだ。


「私は優が好きだから、ずっと隣で生きていきたいの」


結婚なんてできなくても、共に在るのが幸せだと。そう叫ぶことを、許してはくれないだろうか。

むず、と私の胸に顔を埋められる。ダメだったかなぁ、と思ったそのとき。


ごっ。


…何故だかいきなり、肩の部分を殴打された。しかも拳で。

さらにそれは一発で終わらず、二発、三発と続けて殴られる。


「??い、痛い痛いいたいよ、」


優、と言いかけたところで。

両肩に思いっきり体重をかけられた。いきなりのそれに、もちろん受け身なんて取れるはずもなく。


ゴン、と鈍い音を立てて後頭部を床にぶつける。痛い。


「…そういうことは、」


目をつぶって静かに悶絶する。そうして聞こえてきた言葉に、困惑しながら目を開けた。


「もっと、早く、言え」


ばか女。そう言った君はそっぽを向いていた。


仰向けになった私に覆い被さるような姿勢だったから、どんな表情をしているのかは髪の毛が隠してしまって見えなかった。

でも、その隙間から覗いた耳が真っ赤に染まっていたから。痛みも忘れてぽかんと口を開いて、そして思わず笑ってしまう。


あはは、とリビングに声が響く。もう一発殴られたけれど気にせず、再び彼女にキスをした。


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