第3章: 知恵と力の戦い
メカニクスの軍勢は冷徹な精度でエルドリスの領地に迫っていた。洪水や煙、エルドリスが巧みに仕掛けたトラップは一時的にメカニクスを遅らせたが、それも時間の問題に過ぎなかった。彼らの機械的な秩序に対して、エルドリスの知恵だけでは限界がある。もはや、知略だけではこの戦いを終わらせることはできない。彼はそのことを痛感していた。
「冷静に、そして確実に対処しなければならない…オルガスとの直接対決は避けられない。」
エルドリスは「時の城」の高台から、遠くに整然と進軍するメカニクスの軍を見据えた。彼の心には迷いはなかった。これまでも多くの危機を知恵で乗り越えてきたが、今回はそれだけでは足りない。彼の次の一手が、世界の未来を左右するだろう。
ついに、エルドリスとメカニクスのリーダー、オルガスは対峙することになった。オルガスは、完璧な秩序を象徴するように、機械的な体と冷徹な目でエルドリスを見つめた。彼の存在そのものが無感情で、全てを計算し尽くしたかのような静寂を纏っていた。
「知恵の魔王エルドリス。お前の策略はすでに解析した。お前の感情や自由へのこだわりは、秩序にとって害でしかない。」オルガスは冷淡に言い放った。
エルドリスは、冷静に彼の言葉を受け止めた。彼は無駄な怒りや感情に流されることなく、オルガスを観察していた。機械的な思考に基づいたオルガスには、感情や自由の価値を理解することはできない。彼の目標は、完璧な秩序を押し付け、世界をその支配下に置くことだった。
「秩序だけでは、世界は停滞する。混沌や感情があるからこそ、進化と成長が生まれる。完全な秩序など、生命を滅ぼすものだ。」エルドリスは静かに言った。
しかしオルガスは微動だにしなかった。「感情など無駄だ。無秩序は排除されるべき存在であり、お前のような存在こそ、世界を乱す原因だ。」
エルドリスは「クロノ・リフレクト」の力を解放し、時間の流れを探り始めた。彼は未来の可能性を見通し、数多くのシナリオをシミュレーションする。オルガスがどのように動き、どのような手段で攻撃を仕掛けてくるか、その全てがエルドリスの頭の中で再現されていった。
彼は時間を巻き戻すことも可能だったが、何度もシミュレーションを繰り返す中で一つの真実に気づいた。オルガスは未来を完全に予測し、感情や自由の要素を一切排除することで最も効率的な行動を取るが、その計算に欠けているものが一つだけあった。
「感情だ…」
オルガスは感情を「非合理的」として排除していたため、感情の力が戦局を変える可能性を考慮に入れていなかった。エルドリスはそこに勝機を見出した。オルガスの計算には入らない、予測不能な「感情の揺らぎ」を利用することで、彼を打ち破ることができると確信したのだ。
エルドリスは「エモーティア」の魔法を解放し、戦場に響き渡る感情の波を呼び覚ました。メカニクスの支配下にあった者たちの心を再び解放し、彼らが感じていた恐れや不安、希望や怒りが一斉に溢れ出した。感情の力が周囲を揺るがし、戦場の空気が変わっていく。
メカニクスの冷徹な計算と秩序が感情の渦に巻き込まれ、彼らの行動が一瞬のうちに乱れた。感情という不確定要素は、オルガスの計算に基づいた完璧な秩序に「ひび」を入れた。
オルガスはその瞬間を理解できなかった。彼の無感情な目には、感情が引き起こす変化がまるで異質な存在として映っていた。
「これは…予測不能だ…」オルガスは、微かに動揺していた。彼の冷徹な計算では、感情が影響を及ぼすことを想定していなかったのだ。
エルドリスはその瞬間を逃さなかった。「感情は無駄ではない。むしろ、それが秩序と共存することで世界は進化するのだ。」
オルガスの計算が狂い始めたことで、エルドリスは一気に状況を変えることに成功した。しかし、オルガスは完全に崩壊することはなく、冷徹な秩序を再構築しようと試みた。彼の力はまだ強大であり、感情の揺らぎが一時的なものでしかないことを見抜いていた。
エルドリスはさらに「クロノ・リフレクト」を使い、時間を巻き戻すことで、オルガスが破壊する前の状況に戻した。そして、感情と秩序のバランスを保ちながら、オルガスの最も弱い部分――感情を排除したことによる「柔軟性の欠如」を突くことで、彼を最終的に打ち倒した。
「お前の秩序は完璧ではない。完全な秩序とは、柔軟さと感情を許容することだ。」
オルガスはその言葉を最後に、静かにその場から崩れ去った。
オルガスが倒れ、メカニクスの軍勢はそのまま機能を停止した。エルドリスの知恵と感情の力が、冷酷な秩序に勝利した瞬間だった。しかし、エルドリスは満足することなく、深く考え込んでいた。
「感情と秩序のバランスが崩れれば、再び戦いが起こる。私はこれからも、この世界に均衡をもたらし続ける必要がある。」
戦いは終わったが、彼にとっては終わりではなかった。感情と秩序、その両者が調和を保つ世界を守り続けることが、知恵の魔王エルドリスの運命だった。
そして彼は、静かに「時の城」へと戻り、新たな脅威に備え、再び未来を見つめ続けた。
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