台本的なもの

玲希

そんな感じの幸せな呪い

はる:天真爛漫な女子高生。好きなものは勢いで取りに行くタイプ。

あき:自称根暗な男子高生。好きなものは逃げ場を塞いで落とすタイプ。




——学校の帰り道


春:それでさ〜、好み分かんないからって全部買ってきたの!うけるよね?

秋:春の家は良いね。何でも買って貰える。

春:そうかもしれないけど、だからって良いとは限らないよ?

秋:それって……嫌み?

春:違うって!私からしたら、秋の家の方が良いなって思うもん。

秋:例えば、どの変が?

春:全て!……でも強いて言うなら、雰囲気?みたいな?

秋:何それ、つーか疑問系だし。

春:ちゃんと子どもに構ってあげるところ。当たり前〜って思うかもしれないけど、それってすごく大事だよ?

秋:……え?

春:な〜んて、言ってみたりして!

秋:は?え?

春:よく言わない?無関心が一番良くないって。てことは、あれだけ秋にガミガミ言ってくれるご両親は、と〜っても秋のことが大事で大好きってことだよね。

秋:そういうもん?

春:そうだよ。絶対にそう!

秋:でもそれで言うと、春は……。

春:はい!この話はおしま〜い!また明日、学校でね!

秋:……うん。また、明日。



——翌朝、秋の家の前


春:おっはよ〜!

秋:……おはよ。よく毎日飽きないよね。僕なんかと一緒に、登校とか。まあ、下校もだけど。

春:何が?何で?

秋:なに、って……こんな根暗な僕の隣歩くとか、普通にありえない。

春:ふ〜ん……秋にとってありえないことっぽいけど、私にとっては普通でありえることだけどね。というか!自分で自分を下げる発言するなって!いつも言ってんじゃん!

秋:こういうのは、そんな簡単に治るもんじゃないよ。きっと、春には分からない。

春:またそういうこと言う……。

秋:見た目通り、春とは違う人種ってこと。分かるでしょ。

春:どうかなあ……。案外、私の方がもっとやばいかもよ?

秋:そんなの……やばいって、どういう意味で?

春:いろんな意味で!

秋:意味分からん。

春:あははっ!だろうね〜!

秋:まあ確かに、こんな風に僕に構ってる時点でやばい人かもね。

春:お、言うね〜?

秋:事実だよ。だって、あ……。

春:どしたの?……ちょっとさあ!ジロジロ見てんじゃねえよ!

秋:あの人達の気持ちも分からなくはないけどね。

春:こっち見ながらこそこそしてる奴らの気持ちが!?

秋:きっと、春みたいなスクールカースト上位女子と僕みたいな底辺男子が一緒にいるのが気になるんでしょ。

春:別にあいつらには関係なくない?

秋:春はそうかもしれないけど、他はそうでもないってこと。みんな意外と、そういうどうでもいいことに興味持つんだよ。自分には直接関係ないくせに。

春:よっぽど余裕のある人生送ってんだね?私なんか興味ない人間に目を向けたことないんだけど。

秋:それは言い過ぎでしょ。でもまあ、春はそういうタイプって感じする。

春:でしょ?

秋:あ……春、クラスの子が呼んでるっぽい。

春:ほんとだ!じゃあ、秋!放課後にね!今日も一緒に帰ろ〜!

秋:……ほんっと、信じられない物好き。

春:返事は!?

秋:はいはい。



——放課後、学校の玄関


春:ねえ〜、遅いんですけど!?

秋:なんだ、待ってたんだ……。

春:はああああ!?一緒に帰ろうって言いましたけど!?返事ももらってるんですけど!?

秋:無理矢理だけどね。

春:でも確かに返事貰いました〜!事実です〜!

秋:うざ。

春:うざって言った!?

秋:言ってない、言ってない。空耳じゃない?

春:絶対言ってるじゃん……いやもうそれはどうでもよくてさ、今日って暇?どうせ暇だよね?

秋:会話する気ないの止めてくれないかな。普通に家で勉強するよ。

春:勉強するってことは、つまり暇ってことね!

秋:あのさ、春の思考回路ってどうなってんの?

春:たまにはうちで遊ぼうよ!暇そうだし!

秋:はあ……最初から会話する気ないでしょ。

春:はい決まり〜!だってうちでも勉強出来るじゃん!

秋:それはまあ……そうなんだけど。

春:このまま我が家へレッツゴー!

秋:でも、家族の人に迷惑じゃない?春の家って豪華だし……なんというか、僕が行くと場違い感がすごくて。

春:え?親は普通にいないけど?どっちも遅くまで仕事だもん。

秋:え?

春:なんで?なんかマズかった?

秋:いや、別に今更だから何も言う気ないけど、気をつけた方が良いよ。

春:何に?

秋:自分の言動とか。

春:さすがに不審者を招き入れたりしないって〜!秋だから招待してんじゃん!

秋:うん、それが問題だって言いたいんだけど……言うだけ無駄か、うん、何でもない。

春:ほら、気にせず入って入って〜。我が家へご招待〜!家来るのなんて久しぶりじゃない?ずっと会ってはいるけど、家で遊ぶとかもう全然なかったもんね。

秋:何年振りだろうね……もう10年は来てなかった気がするけど。あ、お邪魔します……。



——春の自宅


春:お茶でいい?というか、そもそもジュースなかった!

秋:……おかまいなく。

春:よいしょ、っと。リビングでごめんね〜。さすがに私の部屋は散らかっててさ。

秋:散らかってなくても入れない方がいいよ。

春:え、入るの嫌だってこと?別に秋ならいいんだけど。

秋:僕が嫌だから、いい。

春:……え、なに?そのリアクション、もしかしてバレてる?

秋:何の話?

春:だから来るのも嫌がってたってこと?確かにあれは秋がくれたものだし……通じるものがあるとか?

秋:だから、さっきから何の話してんの?

春:秋って、目に見えないもの信じるタイプ?

秋:いきなりだね……逆に聞きたいんだけど、信じるタイプに見える?

春:だよね〜……科学で証明出来ないものは信じません!って感じするもんね。

秋:よく分かんないけど、春は信じるタイプってこと?

春:ん〜……正直、よく分かんないから、悩んでる。

秋:心霊体験でもした?

春:正確には違う気もするけど、でもそんな感じなのかな。よく分からない現象が起こって、あれはどういうことなのかなって。

秋:それは春にとって、悪いことだった?それとも、そうでもなかった?

春:現象自体はビックリしたんだけど、私的には悪いことではなかったんだよね。むしろ面白かったし。

秋:じゃあ、どうでもいいんじゃないの?

春:いきなりの無関心!?

秋:あ、いや、そうじゃなくて、なんというか、心霊的なものかどうかとか、そういうのは気にしなくてもいいんじゃないかってこと。少なくとも、春に危害を加えるようなことはないんでしょ?

春:そう、だね……。むしろ、なんかこう……私の味方、みたいな……。よく分かんないけど、そういう感じがするかな。

秋:へえ……。

春:信じてないな!?

秋:信じるタイプではないからね。でもまあ、春の味方なら僕も嬉しいかもしれない。

春:秋には紹介してもいいかも……。

秋:それって紹介出来るものなの?目に見えないのに?

春:目に見えないって言ったのはその……なんて言えばいいんだろうなあ……やっぱり見てもらった方が早い?でも動くのは気まぐれだし信じてもらえるかは分からないし……そもそも私が見た都合のいい夢だった説とかない!?ええ〜、どうすべき!?

秋:いや、僕に聞かれても……。

春:だよねえ……。なんかさ、冷静になればなる程、夢だった気がしてきたんだけど。

秋:まあ、じっくりゆっくり考えたら?どうせ春は勉強しないんだろうし。

春:うっわ〜……事実だけに何も言えない……。

秋:だろうね。だから言ってる。

春:あ〜あ、誰か連れてきたら何か起こるかな〜ってちょっと期待したんだけど、そう上手くはいかないか。あ、そもそも今は私の部屋にあるんだった。

秋:……ということは、それって家の中……春の部屋で起こるってこと?

春:そうだね、基本的には私の部屋ってことになるかな〜。

秋:基本的には?

春:ほら、ポルターガイスト現象ってあるじゃん?お化けが勝手に物を動かす〜みたいなの。あれが起こるんだけど……。その、毎回動くものが同じなんだよね。だから、私がそれをリビングに置いたらリビングで動くし。つまり場所は関係ないってこと。

秋:なんか……面白いね。

春:ちょっと!人事だからってさあ!

秋:ごめんごめん。その動くものって、何なの?ちょっと見たいかもしれない。

春:いや、それがさ〜……とっても言いにくくて、ですね……。

秋:あ、ごめん。下着とかならさすがに遠慮しとく。

春:遠慮も何もそもそも見せないっての!そうじゃなくて!秋から貰ったものだからさ……。

秋:ああ、もしかして昔……小学生の頃あげたぬいぐるみ?

春:はあ!?何で分かったの!?え、なんで!?こっちの方が怖いんだけど!?

秋:別に、ちょっとした思い当たる節があったってだけ。でも、そっか。ふうん……そうなんだ。僕も信じてみようかな。

春:え、待って待って?そんなことある!?思い当たる節って、なに!?

秋:僕がそれを渡した時のこと、覚えてる?

春:ちょっと!話逸らさないでよ!

秋:まあ考えてみてよ。ちゃんと春の聞きたい答えに着地するだろうから。

春:本当に……?え〜っと、貰った時、だよね?あれは一緒に行ったお祭りの時で……射的の景品に大きな可愛い熊のぬいぐるみがあって。私はそれが欲しくて、でも全然取れそうもなくて。そりゃそうだよね。今なら分かるけど、多分あれ、絶対に無理だったもん。あんな大きくて重そうなの無理だっての。でもそんなこと気付いてなかったんだよね〜。秋も手伝ってくれたけど、もちろん全然駄目で、諦めようって言ったけど秋は諦めないでくれた。あの頃はまだ可愛いところあったよね〜?

秋:うるさい。関係ない話はいらないよ。

春:はいは〜い。それで、えっと……私がもういいよって何度も説得して秋がようやく諦めてくれて、それから他の出店見たり花火見たりしてから帰ったよね。でも実は秋はまだ諦めてなくて、射的で別の小さな犬のぬいぐるみをゲットしてくれて……それを次の日の朝に貰った、っていうのが私の記憶だけど?これがどう繋がるわけ?

秋:これ言ったら馬鹿にされそうだし、実際自分でも馬鹿だって思うから言いたくはなかったけど……。

春:もったいぶらないで教えてよ!今更言うの止めるとか無し!

秋:言うって。言うけど……馬鹿にするのも無しだよ。

春:しない!絶対しない!

秋:なんか信用出来ないな。まあ、言うけど……春と別れた後、また祭りに戻ったんだ。それで、あの射的で頑張って小さな犬のぬいぐるみをどうにか手に入れて。ちゃんと自分の力で取れたわけでは無かったんだけどね。何発かやって少し動いて、勘も掴んだしあと少し、と思ったところで手持ちがなくなってね。そんな僕をかわいそうに思ったのか、店主がくれた。で、それを持ち帰ったわけだけど、渡す前に、家で呪いをかけてた。

春:え?呪い……?

秋:うん、呪い。それが、春の言ってたポルターガイスト現象の正体かもね、っていう話。馬鹿馬鹿しいけどね。

春:いや、馬鹿馬鹿しいとかじゃなくて、さ……あの、それって本当に、呪いなの?私を呪いたかったってこと?

秋:さあ、どうだろうね?

春:ねえ!茶化さないでよ!私のことずっと嫌いだったってこと!?そんな小学生の頃から!?だったら!だったら……本気で、言ってくれれば……そんな、私だって離れたのに……。

秋:あのさ、春はそのポルターガイスト現象は、何みたいって言ってたっけ?

春:え?

秋:味方みたい、なんでしょ。

春:……うん。

秋:嫌いな奴を助けるような呪いって、なに?

春:あ……そう、だよね。でも!呪いって!意味分かんないんだけど!

秋:少しは自分で考えようとしなよ。

春:無理だから聞いてんの!

秋:はあ……呪いって言っても、別に春を呪いたいなんて気持ちは一切なかったよ。もちろん、今もね。

春:じゃあ、別の人ってこと?

秋:そう、別の人。春の身近にいて、でも、とても遠い人。春に関心を向けてくれない人。

春:もしかして……。

秋:そうだよ、春の両親。

春:なんで?だって、私言ったことなかったよね?それに小学生の頃なんて……むしろ、小さい頃なんて寂しい気持ちとか押し殺すのに必死だったし……バレないように頑張ってたのに。

秋:ずっと見てたからね。辛いの我慢している表情って、意外と分かるよ。

春:それを知ってたから?だから私の親を呪う為のぬいぐるみを渡したってこと?

秋:別に呪いって言っても大層な儀式をしたとかそんなのはないよ。ただ、春が寂しくないようにしろって想いを込めただけ。寂しくさせるなら懲らしめてやる、ってね。僕も小さかったから、そんなよく分からないものに頼ったんだろうね。まさか効果あるなんて思ってなかったけど。しかもそれやってから10年くらい経ってるわけだし、こんなに時差あるのにも驚きだね。

春:なんか、納得かも。

秋:これで納得出来るの相当すごいと思うよ。

春:あははっ!私もそう思う!でも、本当なんだもん。考えてみたら、あのぬいぐるみが動くのって、決まって近くに親のいる時だったんだよね。なんか、親をビックリさせてやろうっていう、そういう小さな反抗って感じ?呪いって感じではないかも。もっと可愛く見えたし。

秋:それで、親の反応は?

春:そりゃもうビックリしてたよ〜。その不気味なものは何!?捨てなさい!ってね。でも捨てるわけないじゃん?だって秋がくれたんだもん。

秋:春って、意外と肝が据わってるよね。

春:そう?単純に親のビビった顔が面白くて、また見たいって思ったのもあるかもね。ずっと持ってればまた動いて親をビックリさせてくれそうじゃん?

秋:さすがというか……。呪いをかけた僕が言えたことではないけど、親は大切にした方がいいよ。

春:呪いかけといてそれ言っちゃう?でも、もう別にどうでもいいかな〜。もちろん、もっと構って欲しかったとかいろいろあるんだけど、もう高校生になっちゃってるし、そんな親に甘えたい年頃でもないし?最近になってようやくビビった顔見れて、それでなんかもうどうでもいいなあって思えちゃったんだもん。てか、あれはマジで面白かった!

秋:それなのに、呪いのかかったぬいぐるみは捨てないんだ?もう不気味なだけに思えるけど。

春:だから言ってるじゃん!秋がくれたのに捨てるわけないでしょ!?ずっと持ってたいもん!

秋:あの呪い……とことん効力を発揮するね。僕がずっと春みたいな明るい人の傍にいれるのは、そういうことなのかな。言うまでもなく正反対だからね、僕たち。今でも仲良く出来てるのが不思議だよ。

春:え、なに?どういうこと?

秋:いや、ここで僕が言うのは無粋かな。というか、自分でわざわざ言いたくない。

春:え〜!気になる!教えてよ!

秋:僕の言った呪い、思い出せば何か分かるかもね。

春:私が寂しくないように……?それがなに……え、待って……つまり?

秋:何か分かった?

春:寂しくないようにっていうのはつまり、親じゃなくてもいいってこと?私が寂しい思いをしないのなら、必ずしも傍にいるのは親じゃなくてもいいってことだよね。誰かが、傍にいれば……。

秋:別に意図したわけではないけどね。元々、小さいながらに春が寂しそうにしてるのは知ってた。あの祭りだって、本当は両親と行こうとしてたよね?でも、“そんなの行く必要ないって言われちゃったの”って、春は笑って僕に言ったんだ。その笑顔がね、とても見ていて辛かった。だから、僕は両親に、春も一緒に連れて行くんだって言って、無理矢理引っ張り出した。本当は僕なんかじゃなく、両親と来たかったんだろうなって思いながら。だからせめて、春がしたいことをして、欲しいと思うものをあげたかったんだ。その結果が、あれなわけだけどさ。確かに、小さい頃は両親が自分に関心を持たなくて寂しかったかもしれない。今でも関心はないのかもしれない。でも成長して、高校生になって、両親が全てではない世界で生きてる。周りに理解してくれる誰かがいてくれれば、寂しくはない。あの時の僕はきっと、春にあんな顔をさせてしまうことが全部なくなりますようにって、そう思った。僕……いや、誰かが、春をずっと傍で見ていて、笑顔でいさせてくれるように。

春:……ねえ、訂正していい?

秋:どうぞ?

春:あのね、“誰か”じゃ駄目だと思う。やっぱり、傍にいるのは秋じゃないと。

秋:……また、呪いかけたものを渡すかもよ?

春:関係ない!そもそも、今私の隣に秋がいるのって、呪いの影響じゃないでしょ?

秋:さあ、分からないよ?

春:呪いなんて本当は信じてないくせに……。

秋:それは春も同じなんじゃない?

春:私の場合は呪いがあろうがなかろうが、自分の手でどうとでも出来るので〜!

秋:つまり僕の呪いは必要なかったわけだ。

春:私、好きなものはガッと取りに行くタイプ!

秋:知ってる。ついでに、好きなものは真っ先に食べるタイプ。

春:さっすが〜!分かってる!

秋:ちなみに、僕は……。

春:好きなものは取っておくタイプ!でしょ?

秋:さすがだね。正解。

春:でも、そんな秋でも知らないこと、あると思うんだよね〜。

秋:へえ……なに?

春:私が、かなり重い女ってこと。

秋:それは、体重が?

春:ぶん殴るよ?

秋:ふふっ……冗談だよ。

春:はあ〜……なんか、言う気が失せた。もう教えてあげない。せっかく秘密教えてあげようかと思ったのに。

秋:別に言わなくていいよ。

春:そんな興味ない感じ?それはそれでちょっと凹むかも……。

秋:興味ないっていうか……今聞かなきゃいけない話でもないでしょ、それ。

春:そりゃそうかもしれないけどさあ……。

秋:一緒にいる時間が長ければ、いくらでも時間あるよね。だから問題ないよ。

春:あ〜もう!ほんっとに!そういうとこ!そういうとこだよ!!

秋:何が?

春:大学がこわい……秋の魅力を知った女共に奪われそう……やば……やっぱ閉じ込めるしかなくない?

秋:今まさに春のやばい一面を見た気がするんだけど。

春:うう〜……こわい〜やだ〜無理〜……。

秋:春。

春:なに〜……って、え?マジでなに?髪になんか付いてた?

秋:今、とてつもなく恐ろしい呪いをかけた、って言ったら信じる?

春:なになに?どういうやつ?

秋:春がこの先ずっと、笑顔でいられますように。

春:何それ?全然呪いじゃないんですけど?どこが呪い?

秋:呪いだよ。だって、春が僕を嫌いになったら、僕は春の笑顔の為にちゃんと離れなきゃいけないから。僕がどう思っていようが関係なく、ね。

春:嫌いになるなんてないと思うけど……。

秋:そんなの分からないよ。大学生になって、春に彼氏が出来て、その彼氏が僕のことを嫌がるかもしれない。そしたら離れなきゃね。僕も頑張って彼女作るかもしれないし。

春:は!?なにその話!意味分かんないんですけど!?

秋:僕はともかく、春が彼氏作る可能性は高いと思うんだけどな。

春:それの候補に!自分は入らないのかな〜、とか!思っちゃったりしないわけ!?

秋:春の彼氏候補に?いや、普通に考えて無理。無いよ。

春:マジの呪いなんですけど……え、待って待って待って?少なからず気があるものだと思ってたんだけどもしかして私の勘違いだったりする?秋ってめちゃくちゃ鈍感?それとも誰にでもこう?え?私の知らないところでどんな女にもこんな優しくしてるとか?は?無理なんですけど?いや何だかんだ言っても優しいところは胸キュンだけどやっぱり他の女にもそれはさあ……。

秋:さっきから何言ってるの。

春:とんでもない呪いをかけてくれましたね、秋さん……。

秋:あ、うん、そうだね。

春:でも良いもんね〜!私は自分で掴みにいく女だから!

秋:呪い自体は信じるんだ?

春:だって、何が起きるか分かんないでしょ!ぬいぐるみの件もあるし?

秋:そうだよね、何が起きるか分からないよね……ふふっ……。

春:え?なに?なに笑ってんの?

秋:呪いについてはそんなこと言うのに、人の気持ちについては同じこと思わないんだなって思って。

春:は?

秋:何が起こるか分からないって言うなら、人の気持ちこそ、まさにそれだと思うよ。少なくとも僕は、ね。

春:え!?その意味深な反応なに!?期待してろってこと!?それともやっぱり本当は好きっていう……。

秋:どうだろうね?

春:恐ろしい呪いかけられた……やばい……なんか分かんないけど、めっちゃ思い通りに進んでる気がする。これ実は、秋のことしか考えられなくなる呪いなんじゃないの?

秋:そうだね。そんな感じの、幸せな呪いだよ。

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台本的なもの 玲希 @sosakusk

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