第14話 仁・白兵戦①





 部屋を出るとエレベーターに乗せられ、屋上のヘリポートへ連れていかれた。いつぶりかもわからない地上に出ると、空は朱く染まりかけていた。潮の匂いがまじる風が吹き抜けて、仁の頬をなぶる。ああ、風だ。外だ。空調越しではない、生きた空気を腹の底まで吸い込んだ。沈みかけた太陽すら眩しく感じる。

 

「こっちだ。来い」


 桐島に叱咤され、仁は久しぶりの外の感覚を味わう暇もなくヘリコプターに詰め込まれた。桐島は「直接、学園のヘリポートにお前を降ろす」と言った。


「正面は生徒がバリケードを敷いている。無駄な戦闘は避ける。情報によれば、伊原春花は校舎内から出ていないらしい。学園内の地図を渡しておく。頭に入れておくように」

「……はい」


 学園の地図を渡されながら、そういえば自分も普通の超能力者だったなら、ここに通っていたはずなんだなと思う。おかしな気分だ。

 同じ島内だけあって、学園にはすぐに到着した。夕暮れに染まる屋上に、数人の生徒達が見える。ヘリコプターが近づいているのに、まったく退く気配がない。あれでは着陸できないと思っていると、不意にガクンと大きくヘリコプターが傾いた。パイロットが怯んだように叫ぶ。


「桐島大尉! プ、プロペラが止まりました!」

抑制装置PSSを使え」

「は、はい!」


 パイロットが何か操作すると、ヘリコプターから超能力をジャミングする電波が発せされた。島内のあちこちに設置されている抑制装置の小型版だが、止められたプロペラを再稼働させるくらいは問題ないようだ。再びヘリコプターが浮上し始める。桐島は無線機で「正門待機班」と呼びかけた。


「宍倉仁を連れて来たことを、対象に伝えるように言ったはずだが」

『――現在、対象を発見できておりません。対象の生命エネルギー派は学園を完全に包み込んでおり、学園内にいる超能力者達と同化していて判別のつかない状況です。その中で濃いエネルギー反応をいくつか確認中ですが、職員も含まれるため人数が多く……』

「残りのポイントはどこだ」

『データを送信します』


 ジジッというノイズと共に、そんな返答が聞こえてくる。桐島はため息をつくと、ヘリコプターに搭載されていたアタッシュケースを開いた。中から出てきたのはハンドガンだった。


「持っていけ。射撃の授業は受けただろう」

「俺に、人を撃てと言うんですか」

「中身は麻酔弾だ。お前はまだ能力を使いこなせていない。こっちの方がマシだ」


 仁は銃を受け取り、ホルダーにしまった。桐島が手早く、ロープ状のハシゴを垂らす。

 ロープは風に煽られ、見るからに不安定な上に、屋上まで届いていない。最後は飛び降りなければいけなさそうだった。桐島がさっさと先を行くので、仁も覚悟を決めてロープを掴む。

 ハシゴの中腹まで進んだところで、桐島が飛び降りた。そして屋上に着地をするなり、生命力を奪うMUの波動が発動する。抑制装置PSSのような、模造品の電波じゃない。危険すぎて世界中で国家機密となっている波動である。

 生徒達がドミノ倒しのようにバタバタと倒れていく。仁も屋上に飛び降り、桐島に駆け寄った。


「何も皆殺しにしなくたって……!」

「殺しちゃいない。操り人形の糸を切っただけだ」


 倒れた生徒は死んでいるようにも見えたが、胸は上下していた。桐島が言う。


「おまえも地下の隔離部屋を出たければ、波動の出力調整をさっさと身に付けることだな」

「波動が漏れ出さないよう、制御する方法ならもう身に付けてます」

「実戦で使えないようなら話にならん。……ここから一番近いエネルギー反応は、この真下の階にある角部屋だ。ついてこい」

 

 倒れた生徒を放置しておくのは気になったものの、今は勇が最優先だ。仁は「はい」と返事をして、桐島とともに昇降口へ駆け出した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る