心療内科医・蒼井凛 ~魂の闇を照らす琥珀と碧の瞳~
藍埜佑(あいのたすく)
プロローグ「心を読む指先」
夕暮れ時、
彼女の瞳……左の琥珀色と右の碧色……が、夕陽を複雑で精緻な色合いにして反射する。
凛は深く息を吸い、静かに独白を始めた。
「私には、他人の心の中に入り込む能力がある」
彼女の声は、部屋の静寂を優しく包み込むように響いた。
「私は触れるだけで、その人の心の中に入ることができる。まるで、その人の心が作り出した世界を歩くように……」
凛は自分の手のひらを見つめた。その手には、特別な力が宿っているようには見えない。しかし、彼女にはわかっていた。この手が、多くの人々の運命を変える力を持っていることを。
「でも、この能力のことは誰にも言えない。言えば、私は普通の医者ではいられなくなる。研究対象にされるかもしれない。それとも、詐欺師扱いされるか……」
凛は微苦笑を浮かべた。しかし、その表情にはどこか寂しさも垣間見えた。
「だから、私はこの能力を秘密にしている。患者には催眠療法だと説明して、この能力を行使する……」
彼女は窓の外に広がる街並みに目を向けた。
夕日に照らされた建物が、オレンジ色に輝いている。
「でも、この能力があるからこそ、私にしかできないことがある。傷ついた心、閉ざされた心、迷子になった心……私なら、その奥底まで到達できる」
凛の瞳に、強い決意の色が宿った。
「私は、この能力を使って人々を救いたい。誰にも気づかれないように、でも確実に……」
彼女は、母から譲り受けた一粒ダイヤのネックレスに手を伸ばした。そのダイヤは、夕日の光を受けて美しく輝いている。
「お母さん、私、頑張るわ。そしていつか、この能力を持って生まれた意味を、きっと見つけ出してみせる」
凛は静かに目を閉じ、深呼吸をした。その瞬間、彼女の周りの空気が変わったように感じられた。まるで、無数の声が彼女に語りかけているかのように。
それは、助けを求める人々の声だった。悲しみに沈む人、不安に怯える人、絶望に打ちひしがれる人……。凛には、その一人一人の声が聞こえているようだった。
「私に任せて」
凛は小さく、しかし力強くつぶやいた。
「あなたたちの心の中で迷子になっている本当の自分を、私が見つけ出します」
彼女は、決意に満ちた表情で目を開けた。その瞳には、これから始まる心の旅への覚悟が燃えていた。
診療所の外では、新しい日の始まりを告げるように、街灯が次々と灯り始めていた。それは、凛の新たな挑戦の幕開けを祝福しているかのようだった。
凛は深く息を吸い、そしてゆっくりと吐き出した。
「さあ、今日も始めましょう」
彼女の声は、静かでありながら、強い意志に満ちていた。それは、これから多くの人々の人生を変えていく、一人の医師の決意の言葉だった。
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