はちみつレモン (セト目線)

居候として俺の家に居座る間、スピカには店の手伝いをしてもらおうということになった。スピカ自体頭は良く、覚えも良いので問題は無いだろう。しかも吸血鬼ヴァンパイアの上位個体故に日光を浴びても燃え死んだりはしない。人間の熱中症のように少ししんどくなるときもあるらしいが、気をつけていれば問題ないだろう。ということは、お使いにも行ってもらえるわけだ。ありがたい。

「セト、これはどこへ運べばよいですか?」

瓶の入った木箱を抱えながら、スピカが振り向く。俺は倉庫の方を指さした。

「あっちによろしく頼む」

「了解しました」

働き手が増えるだけで、ものすごく仕事の効率が上がる。やりたいことがすいすい進んでいく身軽さに、俺はさっぱりした気持ちを抱いていた。

しかしスピカもよく働く。ちょっと手伝ってくれと言っただけだったのに、次は何をすればよいかと聞きに来る。瓶が入った木箱を搬入し終えたあとには、るんるん鼻歌交じりで店内を箒で掃いていた。あまり掃除ができないところまで細かくしてくれて、俺としては非常に助かる。

「ありがとうスピカ。ちょっと休憩しよう」

「私、まだ動けますよ?」

「ここは甘えとけって」

「む、はい…」

すこし不満そうな顔はしたものの、箒を置いてとてとてとこちらに寄ってきてくれた。なんだか犬みたいで愛らしい。

きっとスピカも疲れているだろうと思って、俺ははちみつレモンドリンクを用意した。吸血鬼でも普通の人間の食事を味わえるらしいので、甘いものを渡してみる。

爽やかで涼し気な見た目のグラスにはちみつレモンを入れ、氷を魔術で生成して投入。それから冷たい水をまたまた魔術で生成して注ぎ込めば完成。彼女はグラスをじっと眺めたあと、律儀に「いただきます」と言ってはちみつレモンを一口飲んだ。

その瞬間に、紅い瞳がぱっと輝く。

「おいしい…です!」

ぱあ、っと笑顔の花を咲かせて、可愛らしくそう微笑む彼女を見ていたら、ちょっと胸にくるものがあった。

「よ、よかった」

「これで次のお掃除も頑張れそうです!」

ふんふんとやる気に満ちた顔で鼻を鳴らして、箒をわさわさと動かすスピカ。吸血鬼のくせに、普通の人間の女の子と変わりない。そういうところが、可愛らしい。

「スピカって、掃除好きなのか?」

「はい、大好きです。特技なんですよ」

「そうなのか、」

やばいこれ、どうしよう。

俺は全く恋愛経験が無い人間だが、このときばかりは確信した。俺は、スピカに好意を持ち始めているということを。

可愛らしく微笑む彼女に、どうやら心惹かれるようだ。

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