転移失敗者は現実で終幕を見る

五目御飯

みんな消えた、多分異世界転移。

 いつも通り高校に通い、いつも通り授業を受けている際、それは唐突に起こった。

目の前に広がる光、光、光。

 それが何なのかは、今まで生きていた知識では到底わかりっこない現象。

 「あぁ、そうか、死ぬんだな。」

って、人生を諦めかけたその瞬間、とても地球とは思えないような場所にいた………





「って、感じかな?」

 目の前が光った瞬間クラスメイト全員消えて一人になった俺は、動転したのかクラスメイト視点で誰かに語っていた。

「そもそもさぁ……、なんで俺だけ残されんだよ!!」

 席を勢い良く立ち上がり、行き場の無い怒りをぶつける。

 結構席は後ろの方だったからすぐに分かった、全員が転移したのだと、他のクラスを覗いてみても何の異常もなかったが、自分のクラスだけは俺を残し全て消えていた。

 そのような創作作品にあまり詳しくない人ならば神隠しかなんかだと思い自分の幸運に感謝でもするのだろうが、生憎俺にとっちゃあいつらが異世界に行ったとしか考えようがない。

「せっかくつまらない現世から開放されんのかと思った矢先にさぁ…、神様は俺を無能だとでも勘違いしたのか?それなら転移させてから追放でもしろや……」

 この現状か追放かどっちがマシかは人それぞれだろうが、少なくとも俺にとっちゃ残される方が嫌だった。

「あー、とりまどーすっかなぁ……」

 現状把握、まず一番大切なのはこの転移がどのような種類の物か。

 転移させられた人々の存在が強制的に忘れ去られるような物ならまだ良い。だが、そうでないならばとても面倒な事になる。

「絶対家から一歩もでられない生活になるだろうなぁ…、なんなら、嫌がらせとか受ける可能性も全然あり得る。」

 今の時代のネットは恐ろしいからな。

「とりあえず、教室から出るか。」




 近くの先生をとっ捕まえて情報入手、分かったことは3つ

 ・俺がいた教室は空き教室だと言う事。

 ・一クラス分、俺の知らない奴らがいる事。

 ・俺は、存在しない事。

 結果的に言えば、現実改変タイプだった。

「……っ!!、良く考えりゃ分かる事だったっ!!」

 学校内に不審者が侵入、勿論俺。

 俺は今、先生方に追いかけられていた。

 確かに俺以外忘れられてんのに俺だけ覚えられてたら不自然だ。

 つまり、この世界では俺がいたクラスは存在ごと消え去ったのだろう。

「流石異世界……、やってる事の規模がちげぇわ…!!」

 望まれた形では無いが、これも望んでた非日常といえば非日常か、俺は絶体絶命な状況でも少しばかり興奮していた。

 なんとかして学校から脱出し、町中を歩く

「さて、こうなりゃ、確かめないといけない事がある。」

 心の中では結果など分かりきっているが、確認しないといけない。

 「頼むから、俺の予想を裏切ってくれよ……!」



 目の前には俺の家があった。時間的に親は今家にいるはず。

 鍵を持って慣れた手つきでドアを開ける。

「ただいまー、」

 さて、俺の親はどんな反応するかな?

 リビングに出る。すると、皿洗いしていた親が急に皿を落として割った。

「……、なんで、なんで貴方が生きてるの……?」

…これは…、畳の部屋の中には仏壇が置いてあり、中学生頃の自分の遺影があった。

 予想とは違うが、決して望んではいない形。

俺達は昔、死んだことになっていたらしい。

 「これは、一体どういう…」

 突然、母の後ろに黒い霧が現れた。



「こりゃ、一体どーゆーこった?なぜこの世界にまだイレギュラーがいるんだよ…、いちいち辻褄合わせるこっちの身にもなってくれ…」

 そんな声が聞こえ、母の体は真っ二つになっていた。

 「な…んで…」

 今、何が起きた?、黒い霧、イレギュラー、なにがどうなっている??

 思考が上手く纏まらない、いくらなんでも謎が多すぎる。



 急に、自分の中で何かが変わったような感覚がした。



 納得、ここではそういうふうになっていたのか

俺が死んだことになっていたのは俺がイレギュラーだったから。

 多分ほかの奴らは存在自体無くなっている。

 そして目の前の多分世界の管理者はそのイレギュラーを正しただけだ。だから正しい事をしている。

 「だからって…、目の前で実母殺されて、一人残されていい気分になるやつなんていねぇよなぁ…??」

 目の前の黒い霧から斬撃が飛んでくる。

 俺というイレギュラーを消したいのだろう。

 決して本来なら見えるはずのないそれを、俺は直感で避けることが出来ていた。

「ほう…?貴様はただのイレギュラーではないという事か?普通の人間ならばそれを避けられる筈がないのだがな…」

 俺自身でも不思議だった。体がどう動けばいいのかが全て分かる

 まるで、歴戦の戦士のように最適な動きが出来る。

 そのまま最低限の動きでその黒い霧に近づいた。

 そのままの勢いで殴りかかる、が、霧に攻撃できる訳も無い

 カウンターで右肩辺りに斬撃を食らってしまった。

 「チッ、いってぇなぁ…」

 本来だったら悶絶するであろう痛みも、慣れている。

 慣れている?本来そんな筈が無いだろう。

 俺が俺でなくなる感覚。

「…っ、気持ちわりぃ」

 自分の中で何が起きているのか、さっぱりわからない

「この魔力は……、なるほど、道理で色々とおかしい訳だ。貴様は完全に目覚める前にこの手で始末しないと駄目ならしい」

 目の前で黒い霧が何か言っている。だが、それを気にする余裕なんて無い。

 自分の中にある変化を否定するように、気持ち悪さを振り払うように、腕を横に振った


 『残穢の一太刀』


 頭の中で声が響く

「これは…!遅かったか!」

 目の前の黒い霧が焦ったような声を出すが、自分でも何が起こっているのか分からなかった。

 残穢は霧を飲み込み、そのまま全てを消滅させて行く。

 「…っ、逃げ切れない……イレギュラーよ、我は貴様を逃さない、いずれ、我々の目的の為、貴様を打ち倒す…!」

 残穢は全てを飲み込み、消えていった。


 


 黒い霧があった場所に、なにかもやのような物体があった。

 「これは…記憶?」

 それによると、どうやら異世界転移というのは本当の事だったらしい…

 だからこそ、なぜ自分が大丈夫だったのかが分からない。

 黒い霧の反応や、『残穢の一太刀』の事など、分からない、全てが分からなかった。

 

 一つ情報を入手した。


どうやら、異世界に行ったあいつらは死ぬ予定らしい。

「普通なら、戸惑う場面なのだろうが、不思議と落ち着いている。これ以上、知り合いが死ぬのは不快だな……」

 それならば、今後の予定はもう決まったも同然だろう。


「なんとかして、異世界に行こう。」


 取り残された身分に、そんな事が可能かどうかは知らないが。


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