第26話
試合がはじまり、各場所で声が上がる。
志姫の出番が近づくと門無が救急箱から火打石を取り出しカッカッと打った。
「朱利たちのことは頼んだ」
「おけまる」
志姫が試合場へと入ってゆく。
「とりあえずこの試合だけはノートとペンを置いてしっかりみてみ。すんごいから」
朱利たちは門無に言われるがまま安座の上にノート類を置き志姫を見た。
「はじめ!」
試合がはじまる。志姫の相手は先ほどの警察官の中にいた女性の方。
女性警察官が一歩前にでる。志姫も一歩前にでる。
間合いが詰まる中、志姫に下がる様子はなかった。
女性警察官が半歩下がる。一瞬、剣先が下がる。
それを見逃さず、床を抉るように、恐ろしく速く志姫が差し込んだ。
「面あり!二本目はじめ!」
場を完全に志姫が呑み込んでいた。
志姫が女性警察官相手に前へ、前へ攻め込む。
女性警察官が引き技を仕掛けようにも志姫が鍔迫り合いをよしとせず、すぐに組みほどき間合いを渡さなかった。
じりじりとした攻め合いの中で女性警察官が志姫の竹刀を押さえ、牽制から下がろうとする。
だが、押さえつけられた志姫の竹刀はあたかも蟒蛇のように女性警察官の竹刀を這い、巻き上げ吹き飛ばす。
竹刀を吹き飛ばされ呆気にとられている女性警察官へ志姫が竹刀を振り下ろす。
「面あり!勝負あり!」
お互い一礼し、試合場から出る。
「――朱利」
肩を揺さぶられた朱利がハッとして門無を見た。
「すごい集中力。たぶんそれ第六感みたいな極限の集中力だから大切にした方がいいよ。んで、今の試合どうだった?あれが私らの大将だよ」
門無が朱利だけではなく茅と黒にも聞いた。
「――怖かった」
誰かが言った。
門無が大笑する。
「ほんと、蟒蛇はなんでも飲み込んじゃうんだ」
畏怖の念を抱いた物言いだが、門無の眼はギラついていた。
「んじゃ、改めて志姫の優勝オメー。てことで乾杯―」
『乾杯』と門無の音頭で志姫の祝勝会が丑屋という焼き肉屋ではじまった。
「はじめて剣道の試合を見たと思うんだけど、どうだった?」
「すごかった。そうとしか、すみません」
黒が謝ると呵々と志姫が笑った。
「まあ黒たちはやっと防具を身に着けて、技を学びはじめたばかりだしな。今はそれでいいと思うよ」
志姫が烏龍茶を飲み干す。
「竹本先輩、優勝おめでとうございます。おかわりどうぞ!」
茅が嬉しそうに烏龍茶の瓶を志姫に手渡す。
「ありがとう」
「もう、今日の主役がテン下げでつまらない。もとアゲてけって」
門無が志姫にウザ絡みする。
「やっぱり勝って兜の緒を締めよ、的なことなんですか?」
「お、いいこと言うね黒。まあ、それもあるけど剣道一生の中で大事なのは、毎日の鍛錬で自分と向き合うことだからね。どんな大会に勝とうとそれは通過点なんだ」
「もう、ストイックすぎ。もっと喜べ―」
変わらず絡む門無を押しのける。
「ただ、それは武道としての剣道だからね。スポーツ剣道、いや部活としての剣道なら喜びを分かち合わないとね。てことでカルビ大盛り追加だ」
「フォー、よっしゃキムチに豚トロも追加っしょ!」
宴もたけなわだが時間も時間なのでその場で解散することになった。
「朱利」
志姫が帰り支度する朱利に声をかけた。
「どうだ、自分は好きになれそうか」
「あ、いえ。その、まだ」
「そっか。朱利、朱利は朱利の剣道をすればいい。相手のことは考えず自分の剣を信じろ、切り合いの中で少しでも揺らげば死ぬしかない、相手も必死だからな。まあ、竹刀同士だから死ぬことはないんだがな」
呵々と志姫が笑う。
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