第4話 転職の理由

「おじさんの幽霊見たら帰りましょうね」


 結局、佐々木さんと一緒にマシンルームで過ごすことになってしまった。私は夜食のおにぎりを勧めた。


「梅干しとおかかしかありませんが、よかったらどうぞ」

「どっちを食べていいんですか?」

「たくさんありますから両方どうぞ」

「これ、一人で食べるのですか?」

「変ですか?」

「いえ、そんな事は……」


 私個人の体質として、ああいったものに触れると無性にお腹が減るのだ。ご飯三合を急きょ炊いて、おにぎりにして持ってきた。梅干しとおかか。梅干しは、シソと塩だけで漬けたものに限る。蜂蜜の入ったものは嫌いだ。水筒の熱いお茶もあげた。紙コップを持ってきて良かった。

 

「そういえば、佐々木さんて何でうちの会社に? もともと外資系の大手ですよね」


 給与など下手をしなくとも一桁違う。何でうちのような会社に来たのかと、一時期噂になっていた。


 佐々木さんは、美味しそうに頬張っていたおにぎりを急いで飲み込んだ。


 (いや、そんな慌てて飲み込まなくても……)


 おにぎりを喉に詰めて幽霊が増えたら困る。


「ここの会社ってこの業界としては、割と古いじゃないですか。それで、いろんな技術を持った人がいるのが面白いなと思って……。ここの社長なんか、学生時代は紙でプログラムを動かしてたって聞きました」


 (紙でプログラム?)


 聞いても今ひとつピンとこない。私が不思議そうな顔をしていたのがバレたのか、佐々木さんはさらに話を続けた。


「昔は、マークシートみたいなのにプログラムを書いたり穴を開けたカードを、カードリーダーで読み込ませていたそうですよ。カードリーダーっていっても、今売ってるようなカードを差し込むようなやつじゃなくて、一枚一枚パタパタと束になったカードを読み込んでいくやつです」


「何となく想像出来ます」


 頭の中に浮かんだのは、お札を数える機械であった。昔、アルバイトをしていたスーパーマーケットの事務室に置いてあった。機械で数えた金額が、お店のパソコンに自動で入力されていた。


「雨が降ると紙が湿気て上手く読み込めないので、昔のマシンルームには七輪が置いてあったとか」


「……七輪であぶるのですか? プログラムを?」

「ええ。そうです」


 マシンルームに七輪。そして、火にあぶられるプログラム。何ともシュールな光景だが、佐々木さんは楽しそうだ。その楽しそうに話す佐々木さんの横で、何やら影のようなものが浮かび上がってきた。


 (来た)


『君たち、懐かしい話をしているね』


 声なき声が、耳に響いた。


「出ましたよ。佐々木さん」

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