転生すら面倒だと思うOLが、なぜか面倒くさい霊を相手にするはめになった
夜田 眠依
第1話 なんて世の中なの
世の中は転生に溢れている。大学を卒業して五年。仕事にも慣れてきたので、久々に読書でもしてみようかと思い立った。しかし……。
(何を読んだらいいのかわからない)
おすすめで出てくる本は、『転生、転生、また転生』。そんなに人生やり直したい人がいるのかと、驚いてしまう。みんな真面目だな。私は絶対に嫌だ。
どんなチート技能があろうと、どんな偉い地位に生まれ変わろうと、今より絶対不便なはずだ。転生先が中世ならば、下手をすればトイレは人前でおまるだったり、お尻を共同の棒や海綿で拭いたりしなきゃならない。トイレットペーパーのある、今の記憶を持って転生など絶対にしたくない。
今の人生だって、面倒なイベントをそれなりにこなして、ようやく独り立ちできるようになったのだ。これをもう一度やり直す気力は私には無い。
私はこの便利な現世を、ゆったりまったり過ごしたいのだ。万歳! 現代日本! 面倒なことは仕事だけで充分だ。そう、仕事だけで……。
「火浦さん。相談があるんだけど」
総務人事部の部長が、わざわざ下っ端の私のデスクまでやってくる。これは何かある。
「何でしょうか、磯崎さん」
昔からの会社の方針で、肩書きはつけない。社長が肩書きをつけるのが嫌いらしい。その割には、みんな社長と呼んでいるけど。
私が勤めるのは、創業四十年のシステム会社の総務人事部である。一応、総務課と人事課に分かれてはいるが、あまり意味はない。私のような下っ端は、常に二つの課を反復横とびのように行ったり来たりしている。
磯崎さんは五十代初めのおじさんだ。総務人事部の部長だが、社内の何でも屋さんと化している。
「あのね。夜勤の人からね、ちょっとクレームというか、相談というか、そういうのがあってね」
「はい」
夜勤……何か嫌な予感がする。もうじき退勤時間なのだ。面倒は避けたい。
「火浦さんの実家、確か神社だよね」
「古いだけで、たいして大きくもない神社ですが」
「お祓い……してくれないかな?」
「しません」
私は即答した。
「え? 何で? ちゃんとお金は払うよ」
「面倒だからです」
「面倒って……。神社が、そんな事言ってもいいの?」
「いいんです。だって……お祓いするの、結局私ですから! ここでも何かの機械を納品する時、いっつもお祓いしてるじゃないですか!」
「あれは、コスプレ的な何かだと思ってた」
「それはそうですけど。でも、仕事の手を止められるので嫌です。するなら本職の拝み屋さんでもあたって下さい」
「そういうツテあるの?」
「ありません」
「うーん。困ったなあ」
困ったと言われても、私は知らない。だいたい何で機械の納品の度に、お祓いをさせられるのかもわからないのに。
最後は神頼みなのか? 最新鋭の機械ですら?
ああ、何て世の中なのだろう。
私はパソコンの電源を落とすと、入館カードをタッチし帰宅した。
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