第23話 戦神との戦闘
「な、なんて魔力なの!」
先ほどの厄災級モンスターとは比較にならないほど、そして今まで感じたことすらない圧。
「これはほんの細やかな礼だ」
薄暗かったダンジョンが一気に明るくなるほどの無数の光球がアーミライトを囲うように出現した。
照らされた四人の顔は一様に驚愕していたが、エマの判断は早かった。
「引きますっ!」
エマは扇子を開くと、仕込んでいた脱出魔法を発動した。
四人の体が青い光に包まれ、転送状態になった。
「ふっ」
……が、それはガラスが割れるような音と共にアーミライトによって阻止されてしまった。
アーミライトは魔法が発動してから転送が完了するまでのコンマ数秒の間に、エマの魔法を打ち破ったのだ。
「バカなっ! 私の魔法を一瞬で……」
「そう急くな、まだ来たばかりではないか」
愕然とした表情が堪らない、といった様子で笑った。
突如として現れた、戦神のごとき強さを見せつけるアーミライトに心を折られそうになったエマだったが、瞬き一つで気持ちを切り替えるとすぐに次の手を打つ準備を始めた。
「……ヴラド、五秒よ」
「任せろ」
ヴラドはアックスを強く握った。
「モニカ、俺は全開でバーサークを使うから耳栓なしで行く」
モニカのほうを見ず、真っすぐアーミライトだけを見据えてヴラドは言った。
「お前の力をあいつに見せてやれ」
「うん! ……ヴラドくん、気を付けて」
ニヤリと笑ったヴラドを包む紫色の炎が大きく燃え上がった。
神話に出てくるような、もはやモンスターと呼ぶことすら許されないような存在との戦闘が幕を開けた。
ヴラドが高く跳躍したのと同時に、アーミライトの周囲を囲っていた光球が襲い掛かってきた。
「オラァ!」
ヴラドはそれをアックスで斬り、拳で打ち砕き、壁に蹴り飛ばして防いだ。
「よし私もっ!」
以前もバーサーカーモードに入ったヴラドはアブソリュート・スリープを耐えている。
モニカも杖に目いっぱいの魔力を込めた。
そして歌い始めた。
「~♪ ……あ……」
――しかし、その旋律が部屋に響くことはなかった。
モニカの視線の先には、戦線離脱したエマとルティの姿が。
その走り去る後ろ姿に、今ここにいないはずの昔のパーティメンバーが逃げ去っていく後ろ姿が重なった。
「……い、いや……」
絶望的な状況と、自分を置いて去る仲間の姿。
その光景が過去のトラウマを蘇らせるトリガーとなってしまった。
抗えない恐怖にただうずくまるモニカ。
「二人とも!」
アーミライトを一時的に抑え込む結界の準備を終えたエマが叫んだ。
「ほう、思ったよりもやるらしい」
とっておきの奇襲のはずが、アーミライトはすべてを見通しているような発言をした。
「いいだろう。面白いものを見せてもらった礼だ。今回の贄はその娘だけ許してやる」
そう言うと、光の矢がモニカに向かって放たれた。
「モニカ!」
ヴラドが叫ぶが、その声は彼女に耳に届いていなかった。
苦しい。
呼吸をしているはずなのに、まるで溺れているみたいだ。
手足も痺れてきた。
こんなに辛いのなら、いっそ――
グサッ
「ぐっ……!」
「……ぁ……」
光の矢はヴラドの脇腹を貫いた。
小さく声を漏らしたモニカ。
ヴラドは動けないモニカを抱え、傷を負いながらもエマの元に走った。
その瞬間、アーミライトを囲むように結界魔法が発動されたが、一秒たらずで打ち破られてしまった。
しかし、それでも四人が脱出するには十分な時間だった
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