第22話 ??????・??????
「まさか! まだこの下があるっていうこと? そんなはずないよね?」
ルティは信じられないといった表情で叫んだ。
「いいえ、私が感じるのは眠っているモンスター達の気配よ」
「それって、私が眠らせたモンスターたちの気配じゃないの?」
「ババアはそれがおかしいって言ってんだ」
「え……どういうこと?」
「普通、ダンジョンのボスを討伐すれば、それ以外のモンスター達は直ちに消滅し、ダンジョンも崩壊に向かいます」
「あ、そっか!」
「……今の、ボスじゃないってこと?」
ルティの問いに答えるように、新たな階段が現れた。
「冗談……だよな?」
思わず口にしたヴラドだったが、その階段が表す意味は、ひとつしか無かった。
「まさか、本当に……ここが最深部じゃない?」
「あれは間違いなく厄災クラスでした。それがダンジョンのボスじゃないなんて、まさか、そんなことは……ありえない、はずです」
珍しく動揺した様子を見せるエマ。落ち着きのない様子でウロウロと歩きながら何かを考えている。
しばらく沈黙が続いたが、ヴラドが口火を切った。
「どうすんだ?」
顎に手をやり、ずっと考えていた様子のエマがヴラドの問いに答えた。
「今日は偵察だけにします」
「あ? ビビってねぇでやっちまえばいいじゃねぇかよ」
「命令よ」
普段の柔和なエマからは想像しがたい、その射るような視線はヴラドを一瞬で黙らせた。
「……ああ、わかった」
「ルティ」
「うん」
ルティが時間をかけて何重にも防御魔法を付与した。
その間に、エマは今いる部屋に一瞬で戻ってこれるよう、脱出魔法を入念に仕掛けた。
「行きましょう」
階段を下りていく一行を導くように、両端についた松明が順番に灯っていく。
階段を降りきった先には、黒の迷宮の入り口ほどの大きさの重厚な扉があった。
「何か感じんのか?」
「いえ、何も。それが不気味なのです」
「お前が感知できないなんて、そんなことあんのかよ。宝箱か何かあるだけなんじゃね?」
「一切の油断を捨て去ってください。魔力や気配こそ感じませんが、絶対に”何か”います。私には分かるのです」
こういったイレギュラーな事態が発生したときにチームを引っ張る姿を見ると、やはりこのパーティのリーダーはエマなんだとモニカは思った。
階段を降りたさきに現れた漆黒の扉。
近づくとそれは自動で開いた。
立っている場所から中の様子がうかがえた。
扉の先に広がる部屋は、今まで通過してきたどの部屋よりも広かった。
そんな広大な場所には唯ひとつ、王座のような椅子が置かれているだけだった。
そして、そこには人影があった。
足を組み、頬杖をつきながらうつむいている。表情まで見ることはできない。
ヴラドを先頭に、モニカたちは慎重にその椅子に近づいていった。
「人間……?」
ダンジョンを攻略した者が、ボスの座を奪って居座っているようにも見えた。
「我を下等生物と呼ぶか」
その謎の存在が口を開いた。
「おいエマ、何なんだコイツは? 冒険者か?」
「分かりません……。ただ、人間ではない」
エマは人間ではないと断定したが、見た目は人間そのものだった。
月のような白さの髪は肩あたりまで伸びており、四人を見下ろす瞳は太陽のような赤色をしている。
年齢はヴラドと変わらないように見えるが、発せられた響くような低音と漂う雰囲気は若者のそれとは明らかに異なり、そこに人間とは異なる存在であると信じ込ませるなにかがあった。
「久方ぶりの、そして初めての客人だ。もてなすならばまず、自己紹介のひとつでもしておかねばな」
その男の声は決して大きくないにも関わらず広い部屋全体に低く響き渡った。
「我の名前はアーミライト・ミュルミドラ」
その言葉にルティが反応した。
「アーミライト? だって、それはさっき……」
「さっき? ああ、アレのことか。我の一部……いや、手下とでも言っておこうか」
「あれが手下だと?」
厄災級のモンスターが手下ということにヴラドたちの理解がおいつかなかった。
「貴様らは未曾有の出来事に硬直しているようだな。私が久しぶりの獲物に高揚していたこの数分間が、貴様らの唯一の勝機だったというのに、みすみすそれを逃した」
「なんだと?」
「現代の賢者というのは、悲劇的に落ちこぼれているのだな」
混乱するヴラドたちと、半ば呆れ果てたような様子を見せるアーミライト。
「しかしだ。本当に良く来てくれた」
その言葉と共に、アーミライトが自身の強大な魔力を解放した。
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