第15話  眠らせ姫と愉快な仲間たちの行進

 不機嫌なヴラドを最後尾に、それよりもっと不機嫌なモニカを先頭に再び眠らせ姫の行進を始めた。


 二階の探索を終え、三階へ続く階段に差し掛かったとき、エマがつぶやいた。

「なるほど」


「どうかしたの?」


 エマの声によって先頭のモニカが振り返ったので、全員が耳栓を外した。


「下っ端とはいえ王国ギルドがレッドオークに殲滅されたということに違和感を覚えていたのですが、この先、レッドオークより格上のモンスターが大量発生しています」

「わかった。補助魔法を使うよ」


 ルティが詠唱を始めた。

 今度は各々に魔法陣を敷くのではなく、全員の足元をカバーするほどの大きな魔法陣を作成した。


「うん、できたよ」


 ルティがパーティ全体にかける防御魔法を発動した。

 細かい光の粒子がパーティメンバーの体から出ては宙に伸びていく。


「それほど長い時間は持たないけど、全ステータスがアップするんだ」

「こっからが本番ってか」


 ヴラドがバーサークを使用した。先ほどの戦闘時より、さらに紫の炎が一回りも大きい。

 本当の炎ではないので熱は持っていないはずだが、彼自身の熱がその炎から伝わってくるようだった。


 一抹の不安がモニカによぎる。


 王国ギルドのパーティを全滅させたモンスター……。


 モニカの表情を見たエマは肩にそっと触れ、優しく声をかけてくれた。


「安心してくださいモニカさん。アブソリュート・スリープがすぐには効かなくても、睡眠の状態異常は与えるだけで動きを鈍らせる効果があるので、攻撃が来そうになったら私たちが始末します」


 エマの笑顔を見たら不安な気持ちがやわらいだ。


「うんっ!」


 三人が耳栓をしたことを確認し、モニカが扉を開けた。

 そこにいたのは、レッドオークとは比べ物にならないほど強力なモンスター、アポピスだった。


 しかもその数が異常に多い。


 大蛇に左右二本ずつの手が生え、人間のように直立で滑るように動くアポピス。神々しさすら感じる外見をしているが、口からは一目で毒だとわかる紫色の煙が漏れている。

 少しでも近づいたら一瞬で猛毒の餌食になるだろう。


 百戦錬磨の三人には、この状況が良くないことがわかっていた。

 アポピスに近づきながらも各々が自分の経験や知恵をしぼり、この状況を打破する方法を考えた。


「~~~~♪ ~~~~~♪」


 しかし彼らにはアポピスに近づく必要も、戦う必要もなかった。


「……」

「……」

「……」


 ドサッ ドサッ


 歌声を聞いたアポピスが片っ端から眠っていく。


「~~~~♪ ~~~~♪」


 水晶の宮殿での終盤戦に気合いを入れた三人だったが、必要はなかったらしい。


 モニカのパレードの前では何もかもが無力だった。


 ルティの防御魔法と補助魔法、そしてヴラドのバーサークの炎で、パレードの見た目が派手になっただけだ。

 眠りについたアポピスの口から出ている煙もスモークのようにパレードを盛り上げている。

 誰も何も口にせず、ただモニカの歌声とアポピスが地面に倒れる音が響き渡り、気が付けばダンジョンの最深部まできていた。


 もう慎重に行こうと言い出す者はいなかった。

 もとより、モニカのスキルがあまりにも強すぎて茫然としていた。


 あっという間にボス部屋へと続く扉が見えてきた。

 近づくと血のような赤色をした重厚な扉が自動で開いた。


 そこで待ち構えていたのは、巨大ボスモンスターのゴリヴィデ。


 ゴリラのような筋骨隆々な体はほとんどを白い毛で覆われていて、それをさらに青い炎が包み込んでいる。


 ぐがぁぁぁぁぁぁ……。


 太い二本の牙をむき出して威嚇したが――

 咆哮はそのままイビキへと変わった。


「ふぅ」

 一仕事おえた達成感にひたるモニカと、呆気に取られる三人。


「お、おわっちゃった……」

「散歩してお茶して……まるでピクニックでしたね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る