第12話  最強のチートスキルに振り回される仲間たち

「まさか、全く対象を絞れないとは……。ちょっと予想外でした」

 まだ眠そうな目をこすりながらエマが言った。


「まあ戦闘用じゃないからねぇ」

「いや、絶対にベビーシッター用ではないと思うんだけど」

「そうかな?」

 ルティはモニカに対して呆れたような表情を見せた。


「困ったわねぇ。今のままじゃ共闘は無理そうね」

「……」

 ルティが顎に手をやり、何かを考えている。

「うーん……。一応、試してみようかな」

 ルティはそう言うと詠唱を始めた。


「何してるの?」


 モニカが不思議そうに尋ねると、ルティは自身が生成した光の玉を握り込んだ。


「これ、どうかな?」


 開かれた右手に乗っていたのは耳栓だった。


「錬成魔法が使えるの! すごいねルティちゃん」

「かわいいかわいいルティちゃんは天才だからな」


 ルティのことをちゃん付けで呼ぶのをヴラドがからかった。


「ええと、耳栓はあと一人分でよかったね」

「おいテメェ、それは話が違うだろ」


 結局エマが仲裁に入り、ルティはモニカ以外の三人分の耳栓を錬成した。


「これ、ただの耳栓じゃねぇな。何も聞こえやしねぇ」「防音性能が魔力によって高められてるのね。やるわねルティ」「おお、結構いい感じじゃない? 思ったよりも上手くいったよ」


「「「え?」」」


 三人が同時に喋り出し、同時に聞き直した。

 どうやら周囲の音を完全に遮断しているらしい。


「だ、大丈夫なのかな」


 一旦、全員が耳栓を外した。


「思いつきで作ったはいいものの、本当にこれで戦えるのかな……」

「さぁな。とりあえずやってみようぜ」

「ええ、そうですわね。意外と上手くいくかもしれませんよ」


 二階に進んだ一行の目の前に、レッドオークが何匹も現れた。


「じゃあモニカさん、よろしくお願いします」

「おっけー!」


 モニカが杖を構え、三人が耳栓をした。

 モニカの安全を確保しつつ、レッドオークが迫るのを防ぐ作戦。


「~~♪ ……うわぁっ!」


 しかし背後から近づいてきたモンスターに気が付かず、スキルが中断されてしまった。


「た、たすけてー!」


 モニカがモンスターに追い回され、必死に逃げながら助けを求めているのに誰も振り向かない。

 各々がレッドオークの攻撃を避けるのに集中しているからだ。


「おーい!」


 モンスターが眠りにつかないことを不審に思ったヴラドがピンチのモニカに気が付いた。


「ドジが」


 走って助けに行くが、その真横をサンダー・ドラゴンがかすった。


「あっぶね! おいババア気をつけろ!」

「あら、ごめんなさい」


 言葉と仕草では謝っているが、エマは笑っていた。


「て、てめぇワザとだな……」


 ヴラドの声は聞こえないはずだが、エマはそれを否定する仕草をした。


「あっ!」


 モニカが叫んだ。


 ヴラドのすぐ後ろでレッドオークがこん棒を振り上げている。

 振り下ろされたこん棒がヴラドの頭を割ることはなく、代わりにルティが生成した盾が防いだ。

 レッドオークのこん棒が盾に振り下ろされる音がガンガンと響き渡るが、ヴラドは気づいていない。


「ババア……マジで次は絶対に……」

「ちょっとヴラド早く!」


 ヴラドがその場から動こうとしないので攻撃を防ぎ続けるルティだが、いつまで経っても動かない彼にしびれを切らして接近した。


「うおっ!」


 ようやく気付いたヴラドが驚いてレッドオークに横切りをお見舞いしたが、間一髪ルティの頭上スレスレを通り過ぎた。


「ひぃっ!」


 ルティの身長がもう少しあったらダンジョン攻略どころではなかっただろう。


「邪魔だぞチビ!」


 レッドオークの攻撃から守ってあげて、しかも動かないヴラドに危険を知らせに近づいたルティ。その結果が邪魔者扱いで、あまりの怒りに顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。

 一連の出来事を見ていたモニカは、いつ自分が仲裁に入るべきかタイミングを計っていたが、もうこれは戦闘自体を早く終わらせたほうがいいという結論に至った。


 ただ一人、このカオスな状況の中でもエマは楽しそうに微笑んでいた。


「~~~~♪ ~~~~♪」


 今度こそアブソリュート・スリープが発動し、周りのレッドオークは床に伏した。

 何度か危ない場面があったが、モニカたちは敵をせん滅することができた。

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