第10話 いざ、水晶の宮殿へ!
「ああ! くっっっそダリぃなぁクソがぁ」
水晶の宮殿へ向かう途中、ヴラドが何度目かの愚痴をこぼした。
「あっついしヨォ」
「確かに、ここ最近じゃあ珍しいぐらい気温が高いですわねぇ」
エマは少し着物をはだけさせ、扇子で首元をあおいだ。
白くスラッとした首筋とくっきり浮いた鎖骨、そして襟元からのぞく豊満な胸には同性のモニカですらドキッとしたが、男性陣はまったく見向きもしなかった。
ヴラドは全身から気だるさを感じさせる歩き方をしていて周りなんかこれっぽっちも見ていないし、ルティは小学校にでも向かっているかのように淡々と歩きながら言った。
「今から行く水晶の宮殿ってすこし涼しくなかったっけ」
「涼しい時が多いわね。でも水晶の宮殿自体が涼しいのではなくって、あの場所にブリザルド・スネークが生息していると温度が下がるのよ」
「お勉強が足りねぇんじゃねぇかクソガキ」
「うるさいよ筋肉バカ」
気温とともにヴラドとルティもヒートアップしていったのを止めるつもりでモニカが割って入った。
「そういえばさ! 王国ギルドの人たちって、携帯型の転送装置が配られるんじゃなかったっけ?」
「クソジジイに没収されたんだよ」
「え?」
「ヴラドが悪さばっかりするからだよ」
「うっせぇ」
「ちなみに、クソジジイというのはギルドマスターのことですのよ」
「へ、へぇ……」
王国ギルドのギルドマスターをクソジジイ呼ばわりするヴラドに引いてしまったモニカだが、彼なら王国随一の権力者に対してでも面と向かって言いそうだなと思った。
「ヴラドくんはなんとなくわかるんだけど、みんなの分は?」
「私たちの分も一緒に没収されてしまったの。彼の近くにあったら危ないと思ったのかしら?」
「オメェらもあいつらに嫌われてっからな」
「それもヴラドのせいじゃん」
「なんでもかんでも俺のせいにすんじゃねぇよ!」
「だって本当のことだもん」
ぎゃーぎゃー騒ぎながら歩いていると、古い宮殿を思わせるダンジョンに辿り着いた。
黒の迷宮よりレベルは落ちるが、それでも高難度のダンジョン、水晶の宮殿だ。
「ルティ、準備はいい?」
「うん。しっかり睡眠耐性の魔法も仕込むよ」
そう言ってロッドを構えたルティ。
彼が詠唱を始めると、全員の足元に白い魔法陣が浮かび上がった。
「えっ! 四人分、一気にいけるの?」
通常、補助魔法を担当する『白魔導士』は仲間を一人ずつ強化、回復させる。
ルティは自分を含め、四人分の強化をしようとしている。魔力量もそうだが、器用さが人並外れている。
「あら? そのことに驚くということは、モニカさんは白魔導士とパーティを組んだことがあるのですね。つまり、元々は冒険者だった」
「うっ……」
図星だ。つい口を滑らせてしまった。
「ま、まぁ……うん」
何で冒険者を辞めたのか、何で正体を隠して眠らせ姫なんてやっているのか……。そんな質問攻めにあうことを覚悟したが、それは杞憂に終わった。
モニカは誰にも悟られないようにそっと胸をなでおろした。
ルティの詠唱が終わると、二の腕あたりに盾のマークが浮かび上がった。
「防御魔法が切れたらすぐ分かるように、目印としてつけているんだ」
モニカが冒険者をやっていたとき、よく防御魔法が切れていることに気が付かず前衛が大怪我をするということがあった。
淡く光るこのマークがあれば、そういった事故を防ぐことができる。画期的なアイディアだと思ったが、そのことを口にするとまた冒険者としての過去を探るきっかけを与えることになりそうなのでやめた。
「準備はいいかしら?」
直観的に、エマの問いかけはモニカに向けられたものと感じた。
ヴラドに脅されてここにいるモニカだが、自分にもメリットのある話ではあるし、やるからには役割を全うしたいと思っていた。
気遣いはありがたいが、無用な心配はかけたくなかった。
「だいじょ――」
ドガッ!
モニカが返事をする前に、ヴラドは宮殿の扉を蹴破ってズカズカと中に入っていった。
「……」
ぽかんとするモニカ。
呆れているルティ。
なぜか嬉しそうに微笑んでいるエマ。
三者三様の表情をしていた。
「……い、いこっか!」
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