2
「はあ? 蒸発したぁあ!?」
「しーっ! 声が大きいって!」
桜庭大学のカフェテラスは、大きな窓ガラスから太陽の光が差し込むナチュラルな空間だ。観葉植物やパーテーションで仕切りが作られており、乱雑に設置された木製のテーブルは通行のために適度な距離が保たれている。学食のメニューも豊富で美味しいと評判のため、人が多く集まる場所だった。
明良は窓ガラス側の席を陣取り、幼なじみの
はじめは片手で軽い謝罪をし、明良に向き直る。猫のように少しつり上がっている金色の目は、ゆらゆらと憤りをにじませていた。
「ほんっとどーしよーもねーな、お前の親は」
「返す言葉もない……俺もそう思う……」
はじめは
そのため、明良が置かれている状況は彼にとっても許しがたいものなのだろう。『美人が怒ると怖い』なんて言葉があるが、険しい表情の彼は確かに恐ろしかった。
「だからごめん、この前話してた旅行も行けそうにないや。しばらく貯金崩して生活しないと」
「ばかやろう! んなことより、お前の生活の方が大事だろ。これからどうするんだ? 家賃と光熱費も自分で支払うことになるなら、またバイト探すのか?」
「うん……でも、これ以上バイト増やして勉強時間がなくなるのもキツイんだよなぁ……」
「それに関しては今でも十分おかしいぐらいだからな、お前の場合」
あああ、と頭を抱える明良に、しかめ面のはじめは人差し指を向けた。
「コンビニとスーパーのバイト掛け持ちして、時々夜間の短期バイトもやってんだろ。それで成績トップをキープするのは無理だからな、普通」
「できるできる。連続徹夜コースが生まれるけど」
「社畜のサラリーマンかよ! ったく……そろそろマジで死ぬぞお前。俺は過労死したダチの葬式なんて出たくねーからな」
「そこは大丈夫だよ、今までもなんとかなってるんだし」
へらりと笑う明良に、はじめは長く深いため息を吐いた。
「明良、お前うちに来いよ。あんな頑固者だけど親父は明良のことを息子のように可愛がってるし、事情を話せばなんとかなるぜ、きっと」
「知ってる。でも、親父さんには昔からお世話になってるし、これ以上迷惑かけられないよ」
「他に伝手はあるのか?」
「とりあえず、もう少し給与の良いバイトを探してみる。ほら、俺去年のうちに『指導員』の資格取ったからさ、もしかしたら妖族向けの仕事でなにか見つかるかもしれないじゃん」
指導員の正式な名称は『妖力調整指導員』。妖力をコントロールできない妖族を対象に訓練を行う指導者のことだ。
現在は国家資格とされており、在学中にこの資格を取るには三つのポイントが重要となっている。一つめは、必須科目を受講すること。二つめは、短期間の外部研修に励むこと。三つめは、妖力もしくは高い霊力を保持していることだ。
明良はこの三つをクリアし、試験を受けて無事に最年少で資格を取得できたのだ。
明良が努力する人間であることは、付き合いの長さからはじめも重々理解している。だから彼はまだ完全に納得しきれない面持ちで、ひょいと肩をすくめた。
「そうかい……まあ、明良が頑張るっていうなら、俺はひとまず見守ることにする。でも、限界がくる前にちゃんと相談しろよ」
あと、とはじめが声をひそめる。
「怪しいバイトには気をつけろ。もうわかってると思うが、妖族の中には霊力が高い人間を狙ってるやつもいるからな」
「……うん。わかってるよ」
親友の忠告を、明良は素直に頷いて受け入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます