第12話 男のブラならセーフ

 中間試験当日。仁志はかつてないほど緊張した様子でテストに臨んだ。


 全教科90点以上で、さなえのブラの色を知ることができる。思春期の少年にとって、これほど魅力的な提案はない。


 さなえのブラのためにもなんとかがんばって90点以上を取ろうと、高校受験の時以上に必死に勉強をした。


 その結果、配られた問題用紙に目を通すと、勉強の成果が出たのかスラスラと問題を解くことができた。


 いける! そう確信した仁志。これほどまでに試験が簡単だと思ったことはなかった。


 だが、それも問題を解き終わるまでである。仁志はペンを置いてから解答用紙と問題用紙を何度も見比べた。


 間違いは万に一つでもあってはいけない。ケアレスミスのせいで90点を落としたらもう目も当てられない状態である。


 一生分の悔いを残さないためにも仁志は必死になって、ミスがないかを探した。


 そこで仁志はミスを見つけた。見つけてしまった。急いでそのミスを修正してほっと一息をついた。


 これにて、仁志は最初の難関を超えた。やれるだけのことはやった。とやりきった感じを出した。


 続いて英語の試験。これは特に念入りにやった。郁人が海外に留学するかもしれない。


 そうなった時に、郁人に会いに行くためにも英語は絶対に身に付けなければならない。


 仁志はどちらかと言うと英語に苦手意識を持っている方であったが、それでも必死になって勉強をしていた。


 英語はもう100点取るくらいの勢いで勉強をするほどであった。


 そうして、次々と仁志は試験を行い、試験は全て終わった。


 後は結果が返ってくるのを待つだけである。


 その結果が――


「っしゃあ!」


 仁志はガッツポーズをした。全教科90点を気合と性欲で達成した。特に英語は100点満点とすごい成績を叩き出した。


 これには、周囲の人間もびっくりしていた。


「すげえ! 仁志。お前、いつの間にそんな頭が良くなったんだ?」


 仁志の友人も仁志の点数を見て驚いていた。


「まあな。俺がちょっと本気を出せばこんなもんよ」


 さなえの下着の色を知りたい。たったそれだけの不純な理由であるが、仁志は見事にやり切ったのであった。


「むー……」


 そんな様子を面白くなく見ているのが希子だった。希子の全教科の平均点は75点。少し前の仁志も大体こんな感じの点数であった。70点を下回っている教科はないものの、80点が最高点。90点なんて夢のまた夢と言った成績である。


「なんで……」


 自分と別れてから仁志の成績が急に伸びたのが希子にとって面白くなかった。成績が良い郁人に乗り換えてみたものの、仁志の成績が急に上がるのであれば話はまた変わってくる。


 彼氏のランクが上がったと思って喜んでいたのに、元カレのランクが急に上がるとなるとなんだかもったいないことをした気分にもなってくる。


「はあ……」


 郁人は最近は希子に構う時間も少なくなっていた。仁志と付き合っていたころは、そういう寂しい想いもすることがなかったのに。


 総合的に考えると希子は、仁志と別れたことを少しだけ悔やんでしまっている。


 でも、テスト期間が終わればまた元通りに郁人とデートできるかもしれない。希子はそんな期待を胸に秘めていた。


「よっしゃ! 飯塚! 見たか」


 仁志が郁人に向かって成績表を見せている。郁人はうんうんとうなずいて嬉しそうに笑っていた。


「すごいね。風見君。本当に90点以上取るなんて」


「約束は約束だからな」


「うん。わかった。じゃあ、今日の放課後、家に来てよ」


 郁人が仁志を家へと誘っている。そのやりとりを希子は見ていた。


「え……?」


 希子はまだ郁人の家に誘われたことはなかった。それなのに、自分より郁人と付き合いが浅い仁志があっさりと家に呼ばれているのがどうしても気になってしまう。


 同性同士の方が仲良くなりやすいとかそういう次元の話ではないような気がしてくる。


 自分は本当に郁人の恋人として大事にされているのか、そう疑問に思ってしまっている。



 放課後、仁志は郁人の部屋に呼ばれていた。仁志が郁人の部屋でしばらく待っていると部屋の扉が開いた。


「じゃーん」


 郁人がさなえに着替える。あの時の恰好のままで仁志の前に現れた。スカートをひらりと1回転させてくるっと回る。


「今日は全教科90点以上の点数を取れた風見君にご褒美ああります。わたしのブラの色をなんと教えちゃいます」


 仁志はごくりと唾を飲んだ。どうせ教えてもらうなら実際にあの時と同じ格好をしてくれた方が興奮する。さなえもそれがわかっているからこそ、前回と同じ格好をしているのである。


「それではー。わたしのブラの色を発表します」


 仁志は耳を澄ませた。寒色系の色だということは知っている。ただ、寒色の中でもどういう色かまではわかっていないのである。


「正解は……これでした!」


 さなえはブラウスのボタンを外して、ブラを露出させた。


「お、おお!」


 仁志は食い入るようにさなえの紫色のブラを見てしまう。妙に膨らんだパッド入りのブラ。紫色のブラはリボンもついていて可愛らしいデザインになっていた。


「はい。おしまい」


 さなえは手でブラを隠した。にやっと笑ってイタズラっ子のように微笑んだ。


「え、さ、さなえちゃん本当に良かったの。見せて……」


「うん。英語の点数が100点だったからね。特別にサービスしてあげちゃった」


 さなえは照れながらボタンを留めていく。仁志は本音を言えばもう少しさなえのブラを見ていたかった気持ちはあった。


 でも、記憶に焼き付いたさなえのブラを思い出して、今夜のおかずが決まったと言わんばかりに心を浮足立たせていた。


「ふう……あー暑い。今日も暑いねー」


 さなえは顔を赤くしながら暑がってみせる。さなえも仁志にブラを見せつけていて、どこか興奮していた。


 本当はもう少し見せつける予定であったが、これ以上は自分が恥ずかしくなってしまうので途中で切り上げたのだ。


「ねえ、さなえちゃん。もしかして、下も紫だったりする?」


 仁志の質問にさなえは食い気味でバっと手をスカートの裾に持っていく。


「ダメ! これは見せない!」


「べ、別に見たいなんて言ってないけど……」


「とにかく、ダメなものはダメ!」


 仁志としては色を知れたら良かったのに、さなえは仁志にパンツまで見られると思って警戒心を高めてしまう。


「わかったよ。もう言わないよ」


 仁志は残念そうにため息をついた。そんな仁志を見ていると、さなえも罪悪感めいたものを感じてしまう。


「ん-……じゃあ、次の期末試験でまた同じ条件でやろうよ。今度は下の方で」


「え? いいのか!?」


 仁志は思いもよらないチャンスに目を輝かせた。さなえはそんな仁志の執着心に少し引きながらも、どこかここまで求められて嬉しい気持ちになった。


「その代わり、期末は中間よりも範囲が広いから大変だよ! わかってるの?」


「大丈夫! 期末までまだ期間はあるんだ。みっちりと勉強して、さなえちゃんのパンツを拝んでやるぜ」


「パンツ見せるのは100点取らなきゃなしだからね!」


 さなえはきちんと釘をさしておく。ここの条件だけはどうしても妥協するつもりはなかった。


「それと……こっちも期末までもっとかわいい女装用の衣装を揃えておくから、覚悟していてね」


「お、おう……わかった」


 さなえも乗り気なようであった。


 万一、仁志にパンツを見せるようなことになった時に、少しでもかわいい自分になれるように、さなえも努力をするのであった。


 仁志が郁人の家から去り、自宅へと帰る道のり。仁志は別れた元カノの希子のことを考えていた。


 そういえば、希子とは中学時代から付き合っていたのに、希子の下着姿すら見たことがないことを思い出した。


 初めて見るブラが、まさか男子のものになるとは仁志も思わなかった。その初めての体験が仁志の癖をさらに歪めていくことになるのであった。

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