愛央とたくみ 3年生編

小糸匠

第31話 最後のチアダンス!!

「のび~っ・・・っと」


「相変わらず体柔らけえな」


「たっくんが硬すぎるの!!」


「でも、あたしたちと違って硬くても問題ないんじゃない?」


「たっくんだから?」


「うん」


今日はたくみの前で踊る日。新学期になり一年生が部活を選ぶためのもの。つまり、家ではなく学校で踊る日。1か月前からたくみに見えないよう練習を重ねてきた私たちは、サプライズでたくみへの思いを伝えることにした。


「ありがと~っ!」


「体痛ぇ」


「だいじょうぶ?」


「デスクワークのし過ぎ」


「無理しちゃだめだよ」


「たっくんただでさえ無理しがちなんだから」


「ほんとね」


うちらはチアのユニフォームを着て赤いリボンを付けると、すぐに家を出た。・・・バスの時間が迫っていたから。


「6時48分じゃすごい時間ぎりなんだよなぁ」


「なんで?」


3634さんろくさんよんAが7:14入線15発車だから」


36さんろく・・・34さんよんA・・・??」


「海浜幕張経由快速東京行。それでいかないと間に合わないんだよ」


「えっ、そうだったの!?」


「うん。3634Aが時間に余裕持っていける最終電車」


たくみはスマホを見せてそういった。3634Aというのは、電車が走る時に識別するための列車番号と言われるもの。たくみは昔から3634Aに乗って出かけることが多く、必然的に通学する時にも「ちょうどいい」電車になってしまった。


「3634Aは君津の3番線から出るし、木更津までに乗っちゃえば座れる。あいちゃんと2人で出かける時もよく座ってあいちゃんと遊んでるからなぁ」


「きょうはそれが、私たち全員になったんだね」


「そゆことっ」


「あーい」


「あいちゃんも一緒に見ようね」


「うん!」


「あいちゃんに携帯買っておいて正解だったな」


「学校とか行くときに迷子になったら怖いよね」


「あいたんのけいたい、ねぇねとおなじいろ!」


「え?そうなの?」


「そう。愛央のスマホ、ミントカラーだろ?あいちゃんの携帯買うときに何色がいい?って聞いたらねぇねと同じ色って言ったからな」


「そうなんだ」


「あたしはピンクで、たくみくんはブルーだもんね」


「まぁなぁ・・・」


学校について、私たち二人は朝練に。あいちゃん、たっくんは朝ご飯を食べに行くことになった。


「あいちゃん、あにたべる?」


「えっ?」


「ごはん」


「ごはん、ばぁばがつくった」


「えじゃあ俺だけ食ってねぇの?」


「うん」


「・・・飯作んのはえ〜よ。あの人」


たっくんは1人で朝ごはん、そしてあいちゃんはたくみのスマホであたし達の練習風景をを見ていた。


「ねぇね!しぇな!いる!!」


「ん?」


「ここ!」


「あーほんとだ。あいつら練習してんだなぁ・・・」


実は学校でチアダンスを踊るのは最後。踊り終わってから、部室でたくみを取り囲んで写真を撮ろうという話を水面下でしていた。今日はたくみ色、赤のユニフォームでお揃いにして踊ることになっている。


「たったー、ねぇねとしぇながきているふくって、たったーとあいたんのおうえんするときのふく?」


「ん???あっ・・・」


「しゅごい!あいたんもきてる!!」


「しゅごいねぇ・・・あいつら何企んでんだ?」


学校の新入生歓迎会が始まる直前、私はこっそりたっくんに連絡した。たくみがすでに勘づいている頃、私はこう伝えた。


「お待ちどおさまでした。小糸でございます」


「たっくーん♡」


「あーはいいつもの人ですか」


「冷たっ!なんでよー!!」


「だって・・・あいちゃんが言っちゃったんだもん。テメェら、なんか企んでんだろ」


「うん・・・バレた?」


「何するかまでは知らんが企んどることはバレてる」


「よかった。あいちゃんといっしょに、ステージの前にいてね」


「はーいはいっ」


出番の時。とびきりの笑顔でステージに立つと、1番前であいちゃんとたくみが見ていることに気づいた。


「ねぇね!!」


「あいちゃん・・・!」


「見てるね。たくみくんも、あいちゃんも」


「うん」


私は部長として、マイクを握った。


「1年生の皆さん、こんにちは!応援チア部部長の、3年1組小糸愛央です!今日はマネージャー、そして私の大切な人とご挨拶をしたいと思います!」


私がそういうと、司会がたくみの名前を告げた。


「それでは、応援チア部初代マネージャー、小糸匠さん。前にお願いします」


会場に拍手が起こるとここからが私たちLuminasの漫才パート。ここまでは正直前座だった。


「「たっくん!」一言話して!」


「待てそこであだ名で呼ぶな!!」


会場に笑いが起こった。と同時にたくみは咳払いをしてマイクを握った。


「えーただいまご紹介に預かりました。こんな可愛い妹の横に突っ立ってる「変な高校生クソガキ」こそ、応援チア部の一応マネージャーとしてやらせてもらっています私小糸匠と申します。・・・でこの応援チア部って一体何をしているのかといいますと、具体的には各部活の応援と学校などでのステージ出演が主でございます。あたしがしゃべんのはこのくらいにしとく?」


「たくみくん、あとは私たちに任せて」


「ステージから降りないでよ」


「は?」


「はい!私たち応援チア部は、昨年初めて地区大会に出場しました!今年は関東大会出場に向けて、日々練習をしています。そして、今日は私と横にいるお兄ちゃんのたくみ、副部長で従姉妹の小糸瀬奈の3人で「Luminas」ラストステージになります。つまり、応援チア部特別ステージでお送りします!」


「えっ、俺も!?」


「学校の許可は降りてるよ。あたしたちが1番最後なのも、そういうこと」


「まじかよ・・・、え、俺もポンポン持つの!?」


「違うよ流石に。たっくんは歌うの!」


「・・・まじか」


さらに会場が笑いに包まれ、1年生の緊張感もほぐれたところで、一曲目が始まった。2年生だけで先に披露し、2年生と3年生、そして3年生だけ、最後にLuminasスペシャルステージという構成に仕立て上げたのはたくみの漫才を参考にしたから。


「えー、はい。いよいよ来ちゃいましたね」


「うん・・・でも、たっくんの十八番でしょ?」


「誰がお墓に入れだって?」


たっくんがそう突っ込むと会場は今日最大の大爆笑に包まれた。たくみにはこれから二曲歌ってもらい、一曲目は私と瀬奈も参加して歌う。二曲目はチア部全員でチアダンスを踊る。


「ちなみにあの、あたくし何も聞いてません」


「じゃあいくよ!ミュージック、スタート!」


曲がかかり始めると、たくみはすぐこう言った。


「あこれか。なーるほどね」


「私と瀬奈も歌うよ!」


「うわ、心強え」


一曲目を歌い終わると、たくみがこういった。


「えーでは横のツレには準備をしていただきましてね、少しトークでもしようと思いますが私元々マネージャーやる気はなかったんですよ。女社会だし、あたしが1人でどうにかなるもんじゃないので。ただなぁ、やっぱ愛央と瀬奈のおかげで今のあたしがいるというのは言うまでもありません。二曲目は聞いていましたので、1発行きましょう。愛央たち部員の準備もできたようなので・・・お願いします!」


二曲目を歌い終わると、私たちはたくみを真ん中にして整列した。号令は、たくみにかけてもらうことにしたの。私が泣いてて使い物にならないから。


「えー予想通りですね。部長の愛央が泣いております。見窄らしい姿で申し訳ありません。これを持ちまして応援チア部の発表を終わります。ありがとうございました!!」


部室に戻ってくると、たくみとせながぎゅーっとしてくれた。


「んだよ、お兄ちゃんに言っとけよー」


「ごめんね・・・」


「泣くなよ。怒ってねぇからさ」


「あいあ、タオルあげる」


「ありがとっ」


「涙止まった?」


「うん」


「よし、愛央と瀬奈と俺を囲んで写真撮るぞ!」


「はい!」


「あんたら2人持っとけよ」


「あおぎゅーしていい?」


「うん」


「みんなで撮る?」


「あいちゃんにカメラ持ってもらおうか」


「あいたん?」


「先生、あいちゃん抱っこして撮ってください!」


「あいちゃんをたくみとあおさんの間に入れればいいじゃん」


「あそうじゃんそうしよや。あいちゃんたったの頭の上に乗って」


「あい!」


準備が出来て写真を撮った。私とあいちゃん、たくみ、瀬奈を他の部員が囲んだ写真。


「はいお疲れ様でしたー。帰るぞ」


「お疲れ様でした!」


今日はこれでおしまい。終わってほしくなかった私はずっとたくみの右腕にぎゅっと抱きついてた。


「たっくん・・・終わりたくないよ」


「は?」


「むぅ・・・お兄ちゃんの近くでもっとチア踊りたかったのに・・・」


「家で踊れるじゃん。愛央と瀬奈、あんたらLuminasのユニフォーム着て踊ってたの俺が知らんと思った?」


「あっ・・・」


「踊れるから大丈夫。あたしたち、たくみの応援団でしょ?」


「うん!」


「あーよかった。いつものやつに戻ってくれて」


「やっぱたくみがいて、よかったね」


「うん。たくみくんのおかげっ」

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