ダンボールという推したちを入れた棺桶たち、そして私が入った棺桶

Hugo Kirara3500

第1部

 今日も抗がん剤で体がだるいわ。それでも、数日間一時帰宅できたから部屋の荷物を妹のかれんに頼んで近所のスーパーで買い物のついでにもらってきた大きめのダンボールに次々と放り込んでいったわ。学生時代にハマっていたあのカップリングの同人誌とかOLになりたての頃にかじったあのジャンルの同人誌とかを泣きながら揃えて箱詰め。昨日は二十箱、今日も十数箱宅配のお兄さんに引き渡したわ。


 突然のステージ4宣告が出てからは若年性がんは進行が早いと言われて、見切りをつけた本から少しずつ売りに出してきた。ピーク時で同人誌と商業誌とで合わせて一万冊どころじゃすまなかった私の部屋の本たちももう二千冊を切ってしまったわ。私が推しのために書いた個人サークルの本は入院で本が作れなくなって数年経っていたから在庫はもうほとんど残っていなかったね。私のかわりにイベントに出て売り子をしてくれた友達兼相方のあゆみさん、本当にありがとう。もう彼女とかれんに足を向けて寝れないわ。


 大学院の工学研究科でロボット工学の勉強をしているかれんの部屋は相変わらずいろんなパーツが転がっているわ。CPUやメモリといった小物から腕や脚、そして胴体という大物まで。そして組みかけの体がノートパソコンや計測機器に繋がれているのももう見慣れたわ。


 出した本やグッズの査定が済んだら通帳に入金されるはずだけど私はたぶんその金額を知ることはできないんだわ……でもかれんの学費の足しにしてくれたらそれでいいの。彼女はゼミ仲間と学内ベンチャーを立ち上げたばかりで忙しくてバイトなんてとても無理だから。それでも私のために色々してくれている彼女には本当に頭が上がらないわ。ありがとう、そしてこんなお姉ちゃんで本当にごめん。


 五日ほど部屋で検品という名目で最後の晩餐ならぬ最後の推し活、読んだ後の納棺ならぬ梱包という名の推しとの永遠の別れを済ませて家具以外何もなくなった部屋を離れて病院に戻ったわ。永遠の別れというだけあって、推しの姿を頭の中に焼き付けるたびに涙が止まらなくなったわ。それでもお気に入りのアレだけは残して病室に持ち込んでいるわ。次巻が楽しみなんだけどもうね……あああ……私は天を仰いだわ。


 病院に戻った私は、引っ越し直前のように何もなくなった部屋を思い出しては悲しく寂しい思いをしたわ。ちょっと前までは床が抜けるんじゃないかとまで言われるくらいうず高く積まれたダンボールとぎっしり詰め込まれた本棚があったのに。その時の記憶と比べるとまた涙が出るわ。


 それから四日後、私の体がもう限界が近いということがわかって知っているみんなが集まってきたわ。私はかれんにまた謝ったわ。私の怠慢で早く病気が発見できなくて彼女に多大な迷惑を押し付ける結果になって。彼女は私の手を握って、

「そんなこと気にしなくていいよ。だってあなたはわたしの大事なお姉ちゃんだから」

と言ってくれたわ。その直後、私は完全に動けなくなって話すこともできなくなったわ。

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