第12話 メーティスの女ボス
正午に差しかかる少し前、絶滅特殊部隊の隊員であるロマーディオ・ザガロとヴァネッサ・ベラルージュは、パルマンたちよりも早くバスタベリオス地区に来ていた。懇意な間柄にある《メーティス》という名前の
周囲は華やかな繁華街や楽しそうな娯楽街が所狭しに広がっている。その深淵部にあるのが不夜城と呼ばれる歓楽街だ。
夜遅くなると、未成年の不良たちが年齢を偽ってナイトクラブやディスコへ入って行く姿が絶え間なく目に入る。世の中の裏事情を何も知らない気の毒な者たちだと哀れみすら覚えた。
興味本位で酒を飲み、気の向くままに踊るだけで済めばいい。だが、無法者たちの経営する
まだ営業をしていない歓楽街に二人は私服姿のまま足を踏み入れた。それには二つの理由がある。
一つは絶滅特殊部隊の隊員だと知られないために。もう一つはこれから行く先が盗諜屋だと分からないために。
並んで歩く二十歳のロマーディオと十九歳のヴァネッサは、
ロマーディオとヴァネッサは手を繋いでもいなければ、腕組みもしていない。何か楽しげな会話をしている様子もない。
道なりに歩き続けること十分ほど。ようやくポールダンズバーに偽装した《メーティス》に到着した。経営陣以外ははここが盗諜屋であることを知らない。
まだ営業時間外だが、店の自動ドアは作動していた。
ロマーディオたちは堂々と店の中に入った。二人が来るのを知っている盗諜屋の人間が監視カメラで見守っているはずだ。
店内は数台の清掃用のロボットだけが静かに動いていた。
ダンサーが下着のような姿で妖艶に踊るポールの立ったステージを横切りながら、奥にある関係者以外立ち入り禁止のドアを開けた。ここも施錠されてない。
まだ今の時間帯では従業員やダンサーたちの更衣室や休憩室に人の気配はなく、当然ながら明かりも点いていない。それでも、この暗がりの中で経営者の部屋に通じる頑丈そうなドアの両脇には巨漢のロマーディオ並みに背が高くて頑強な体つきの
「これは絶滅特殊部隊のお二方、お待ちしておりました。ボスが奥でお待ちしております」
警護役の一人が口を開いた。この男のほうが年上にも拘わらず、丁寧な言葉遣いだ。
「お、悪いな。それじゃあ、通らせてもらうぜ!」
ロマーディオは慣れた話しぶりで挨拶を交わすと、もう一人の護衛役が開けた頑丈なドアの向こうに足を進めた。ヴァネッサもそれに続く。
壁の色と同じく真っ白な通路は左右に分岐し、二十メートルぐらい先で奥に向かって直角に曲がっていた。
左側には十数人でなる頭脳明晰なハッカー集団のいる極秘情報集積室があり、右側には得た情報の裏取りを行う
追跡者はロマーディオ以外の絶滅特殊部隊の隊員と同様に
通路はさらに奥に伸び、再び両方の通路が結ぶように直角に曲がってから《メーティス》のボスの部屋に通じていた。
左右どちらから行ってもボスの部屋にはたどり着くのだが、ロマーディオたちは右側を選択した。
数分歩くと、ボスの部屋の前に来た。
ロマーディオはドアを二回ノックしてから「俺だ」と伝えた。
「入っていいわよ」
インターホンから若々しく、気の強そうな女性の声が聞こえてきた。それと同時に、ドアのロックを解除された音がした。
ドアを開けて、二人はボスの部屋の中に入った。広々としていて、とても綺麗だった。
高そうなビジネスデスクがあり、ノートパソコンの操作を止めた《メーティス》のボス――レヴィオラ・パラデュームが椅子の背もたれに全体重を預け、「いらっしゃい」と出迎えた。
金髪のロングヘアがとてもよく似合うモデル並みに美しい女性で、高級ブティックで売っている服を華麗に着こなしていた。だが、二人を見た途端に少し不機嫌そうな顔になった。その原因を二人は承知していた。
「なぁ、聞いてくれ、レヴィオラ。ボルファルトが俺ら二人をここに来させたのに深い理由はねぇ。あんたのところと違って、俺らは人員が少ねぇのは知ってるだろ?」
赤茶色の逆立てた短髪を搔きながら、ロマーディオは言い訳をした。
「それは承知しているわ。ただね――」
「心配しなくてもいいよ。前にも言ったと思うけど、あんたを信じているから。ここでは力を使わないって約束する」
淡々とした口調でヴァネッサは言い切った。
少しの間、二人の女性は視線をぶつかり合わせた。数秒後、真面目に見つめるヴァネッサに根負けしたようにレヴィオラは大仰に両手を広げた。
「。
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