第16話 吸血鬼は夜に誓う

「親父が…サイバネストを丸ごと転生させた張本人だってのか…?」


 俺の言葉にギンガは呆然とした様子で問いかけた。


「推測の域は出ないが、俺はそうだと踏んでいる。お前の父親はアスモデウスとしての魂を持って人として転生したのだろう。お前が特異な能力を持って生まれて来たのも、その影響だと考えられる。最初からアスモデウスの意識を持っていたのか、大きなショックをきっかけにその意識が表出したのかは分からない。だがやつの能力が覚醒していたのであれば、アスミ重工に留まらずサイバネストに連盟している企業を強制的に操って、サイバネストの科学力を転生の実行に注力させる事は出来るはずだ」


 気に食わないがアスモデウスは最上級の魔族だ。俺の魅了チャームのように、その魔力を以てすれば人間を操る事など造作もない。ミーナ達サイバニアンが転生してしまった事についてすんなり受け入れてしまったと言うのも、やつの力が多少なりとも関わっているだろう。


「そこまでしてこちらの世界に戻ってきた目的が何かは分かり兼ねますが、今後も王国と科学都市が良き隣人同士であるためにも、決して放っておいてはならない存在である事は間違いないでしょう」


 俺はルティアのその言葉に頷き、先程のめいに対しての意思を伝える。


「ああ、だからこそ俺は、何でも屋≪ブラム≫としてアスモデウス討伐の依頼を承らせて頂こう」


 そう、これは俺だけの問題ではない。この世界を脅かす者を討伐するために俺はこの依頼を受けよう。


「きっと辛い過去と向き合う事となります。よいのですね?」

「それで良い。乗り越える機会を得たと思って、全力でやらせて貰おう」


 母上の仇であるやつを殴りに行く。個人的に復讐する気持ちも隠さない。それに俺の予想が正しければ、はまだ救う事が出来る。だからこそ全力でこの依頼に当たろう。


「では、よしなに……ぶはーっ!」


 そう言ってルティアは盛大に息を吐いた。


「あ~!王女わたくしとして喋ってたら疲れちゃったよ~!ねえにーさま、依頼に取り掛かるのは当然明日からでしょ?だったら今日はボク、ここにお泊りしたいな♡」

 

 ルティアの雰囲気がいつもの猛獣状態に戻る。大事な事柄に対してしっかり王族としての切り替えが出来ているのは素晴らしいが、落差が激しすぎる。


「泊まりたいのなら私の部屋で充分でしょう。それにアル様の夜のお相手は先日私とミーナでしたばかりです。またの機会になさい」

「え゛ぇー!?すっごく楽しみにしてきたのにー!まあでもしょうがないや。あ、それなら皆でパジャマパーティーしようよ!にーさまは依頼が無事に終わったら覚悟しててね!」


 エリィはルティアに釘を刺し、そのルティアは俺に宣戦布告をする。


「~っ…エリィ…それ言っちゃ恥ずかしいよ」

「お、お相手!?け、け、眷属ってそんな事もしてんのかよ…」


 ミーナは恥ずかしがっており、ギンガはバチバチと音を立てまるでショートした機械のようになっている。ここも賑やかになったものだ。


「ギンガも参加するんだからね!どこが良いなって思ったのか教えてよ!」

「アタイも!?それに良いってなんの話だかわかんねえよ!」

「とぼけちゃって~!」


 既に女性同士の話に花が咲いている4人を余所に、外のトラックに目を向ける。どうやらユキネが目を覚ましているようだ。話が終わった事を伝えて、外の3人も客間に泊まらせる事にしよう。


 こうして賑やかな夜を迎える何でも屋≪ブラム≫

 そんな中、俺は遠い夜空を眺める。高ぶるあの悪魔への感情をその深い闇に溶け込ませるように、己が決意を新たにしたのだった。

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