緊急依頼:あの悪魔を討て

第13話 勇者は真っ直ぐに突っ込む

明日見あすみ伝助でんすけ…?」

「正真正銘、アタイとユキネの親父だよ」


 苦々しい表情で応えるギンガ。

 衝撃が俺の頭を駆け巡る。

 父親が実の娘達に対して非道な実験を行った事。

 そしてアスミデンスケと言う名。

 あのを思い出すような語感に、忘れようとしてきた怒りが心にくすぶる。


 いや、流石に考え過ぎだろう。

 こんなもの、ほんの少し発音が似てる程度の俺のこじつけだ。

 それよりも今の疑問は


「しかし、なぜ自分の父親が黒幕だと?」

「前々からそうじゃねえかとは思ってたんだ。確証は無かったけどよ」


 信じたくもなかったしな。とギンガは呟き


「アタイが逃げ出した実験施設は、アスミ重工が転生前に既に廃棄してた場所なんだ。そして逃げた時に追ってきたのはスクードのやつらだった。」

「すまない、そのアスミ重工とスクードの関係を教えてくれ」

「スクードの親玉って所だな。今じゃサイバネストとしか呼ばれなくなったけど、科学都市はいくつかの企業の連盟で成り立ってる。アスミ重工はその連盟の中核なんだ。」


 転生してきた科学都市は『サイバネスト』という1つの集合体としてこの世界と関わっているため、企業と言うものが主張をしない。

 とは言えこれは俺の知識不足だな。

 

 俺がその説明に得心が言ったのを確認し、ギンガは続ける。


「施設は悪用されただけかもだし、スクードも本物か分からねえしそれだけじゃ証拠としては弱かったんだ。でも今回、あのハイヒューマンの男が『代表』って叫んだので確信した。自分の事を代表なんて呼ばせるやつは連盟の中じゃ親父だけだ。だから…」


 涙を堪えるようにギンガは振り絞る。


「だからアタイの家族の不始末に巻き込んで、本当にすまなかった…!」


 悔しさと悲しさを堪えるように彼女は震える。

 父が自分達を見捨て、この世界に害をなそうとしていたのだ。

 その心情は安易には想像出来ない。


「俺達は気にしなくていい、それも含めての依頼だ。…辛かったな。」


 俺の言葉に続いて、エリィとミーナも真剣な眼差しで頷く。


「─っ。ありがとよ。でも分かったからには親父をとっちめねえとな!」

「ですがあの場で重要な手掛かりを聞いたのは私達だけです。どう証明すれば…」


 ギンガがいつもの調子を取り戻し、場が仕切り直される。

 次の問題は証拠をどう提示すべきかだ。

 すると

 

「それなら映像と音声が通信記録に残ってますよ!」


 ミーナが問題への光明を見出した。


「なるほどな!何でも屋達のマスクの映像は全部記録されてたって事か。やるじゃねえかミーナ!」

「いえいえ!頑張ったのはアルさん達みんなですから!それで、この記録はギルドに持っていきますか?」


 ギルドか、ガルドとメリッサならば上手く処理する事が出来るだろう。

 だがそれならばもっと適任がいる。

 …少し気が重いがに頼むか。


「それなら適任が─」


─バタン

 突然扉が騒がしく開く。


「それなら!!」


 突如玄関に現れたのは、長めの金髪を左右でそれぞれ結び、赤を基調とした防具を装備した少女だった。

 少女は俺を見つけるなり突撃してくる。


「ボクに任せてよ!にーさま!!!」


─ドスン

 赤い閃光が俺の鳩尾みぞおちに直撃し、そのまま抱き着いてくる。


「コフっ。…久しぶりだなルティア」

「久しぶり!にーさま♡」

 

 赤い猛獣ルティアが甘い声を出す。


「いつも言っているだろう。俺はお前の兄じゃない」

「えー、だってボク達は遠いご先祖様で繋がってるんでしょ?だったらにーさまじゃん!」


 事実は間違ってないが、曲解した持論を返してくる猛獣。

 こいつの相手は骨が折れる。


「離れなさいルティア。あなたも成人しているのですから、もう少し慎みを持つべきです」

「エリィのケチー、良いじゃん久しぶりなんだから!どうせエリィはにーさまにいっぱい甘えてたんでしょ!」

「それは別の話です。早く離れなさい、アル様が困っていらっしゃるでしょう」

 

 エリィとルティアは会うたびにこれだ、もう少し仲良くできないものか。


「なあミーナ、この顔…めちゃくちゃ有名人じゃねえか?」

「はい…初めて会いましたけど知ってます。ルティアって名前も」


 ミーナとギンガも、この世界にいる以上は魔王との決戦を知っている。

 だからルティアの名と姿も知っていて当然だ。


「2人は初めましてだよね?ボクの名前はアブソルティア・ルイン・ブライティ」


 ルティアは、俺から離れ2人の方に向きなおす。


「この国の勇者で、王女で、にーさまの眷属だよ!」

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