依頼人:明日見ギンガ

第7話 銀狼は絆を叫ぶ-1

「はあ…」

 

 冒険者ギルドへの道の途中、昼間からの呼び出しにため息が出る。

 人間の生活に合わせるとこうなるのは仕方のない事だが、少しは吸血鬼の身にもなって欲しいものである。

 ギルドへと続く王都の大通りは、城下町らしい活気のある様子が印象的だ。

 様々な露店の掛け声。若者たちに人気の喫茶店。武器屋で武具を見比べて悩む冒険者。

 人々のそう言った光景は、うんざりする日差しを除けばとても好ましい。

 だがその昼下がりの平穏は、悲鳴によってにわかに乱された。


「きゃああああ!」

「ガガガガ」

「みんな離れろ!離れてくれ!俺のオートドールが言う事聞かねえんだ!」


 悲鳴の上がった方を見ると、暴走する大型の作業用オートドールが目に映った。

 俺は即座にオートドールを止めに向かう。

 

「みんな!僕の後ろに下がって!」

「怪我をした方はいませんか?こちらで治します!」


 先ほど武具を見比べていた冒険者とその仲間も店から出てきたらしい。

 流石だな、ギルドの教育が良く行き届いているようだ。

 通行人の安全は彼らに任せ、俺はオートドールに専念しよう。

 ただ見物人も多い、力は抑えておいた方が良いな。

 

「ガガガガ!」


 標的も無く両腕を振り回し暴れるオートドール。

 その腕が空を切り、上体が反った隙を突き懐に潜り込む。


「ふんっ!」


 オートドールの不安定になった右脚へ足払いをかける。

 いくら大型と言えど二足歩行だ、重心を崩してしまえば脆い。


「ガガガガガ」


 体勢を崩され、地面に背中から倒れこもうとするオートドール。

 俺はその倒れこむ下に入り、右の拳を突き上げ背中を貫いた。


「ggっp─」


 断末魔とも取れる機械音と共に、オートドールは活動を停止した。

 

 オートドールを右腕で持ち上げている状態の俺は、舗装された道が傷つかないようゆっくりとそれを地面に下した。

 幸い被害は無いようだな。


「ありがとう!!」


 見物人達から拍手が送られてきた。


「すまなかった!格安の部品を仕入れて交換したら調子が悪くなっちまって…ちゃんとした店に頼めば良かった…止めてくれてありがとう!」

 

 暴走した個体の持ち主が、俺や周囲に謝罪を入れてまわっている。

 使役者の魔力を注ぎ続ける必要があるゴーレムと違い、オートドールは魔鉱具による魔力充填で動かせるため誰でも使用する事が出来る。

 そのため王都でも作業用が流通し、人気となっている。

 だが粗悪な部品を使用したり正しい知識も無く修理をしてしまう事で、稀ではあるがこのようなトラブルが発生してしまっているのだ。


「あの、さっきのすごかったです!」


 通行人を守っていた冒険者の少年がやってきた。

 戦士職のようだ。


「あなたも冒険者なんですか?」


 もう1人は魔法職の少女だ。

 2人ともまだ真新しく安価な装備品を身に付けている。

 ルーキーと言った所だろう。


「いや、俺は何でも屋をしている者だ。ギルドには登録していない」

「じゃああなたがあのアルさんですか?」

「聞いてた通り!すごい格闘家さんなんですね!」


 俺の魔法や能力は独特で、使ってしまえば科学都市で暴れている化け物だとばれてしまう可能性がある。

 なので王都では徒手空拳で戦うようにしているのだが、いつの間にか格闘家と言う事になっているらしい。


「シャイン騎士団である!通報を受け参った!」

 

 そうこうしている間に、事態の収拾するため騎士団がやってきた。

 ギルドでの約束の時間もあるので、報告はルーキー2人に任せよう。


「2人ともすまないが、騎士団への報告を頼む。俺は急ぎの用があってな」

「はい!任せてください!」


 少年の活発な返事に手振りで返し、俺はギルドへと向かった。

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