episode.2 異世界転生80回目
まただ。またこの感覚だ。身体全体が大きな波に飲み込まれているような息苦しさ、それなのに心地よさもある。
いつも突然のことで一瞬動揺するが、最近は「身体の不調じゃないだけマシか」と軽く考えられるぐらいにはなっている。
今回で何回目の渡航になる? 75回? いや、80に近かった気がする。
いや、もう何回でも一緒か。
人間は慣れる生き物だと言ったもので、回数を重ねるたびに冷静さがどんどん増してくる。
最初なんて鼻水を垂らしながらお小水でズボンをビシャビシャにして、ゴブリンから逃げていたときが懐かしいものだ。
さて、考えるべきは、どんな情勢の国で、どこが優勢か劣勢かということだ。
自分の能力によっても大変さが段違いだからな。
左手から泥水を吸い出して、右手から聖水を出せる能力の時なんかは、気づいたのは終盤も終盤、左手の傷を致し方なく泥水で洗ったときに発覚したもんな。
ヒロインの数も重要だ。まだ二人ほどなら苦労しないが、五人や行く先々の街の娘が必ず俺に恋するようになっている時が地獄だ。
そうなると必然的に、女達から袋叩きにされるイベントが多発することになる。
漫画や小説で読むには面白いかもしれんが、実際にやられてみろ。女戦士達の力で体を痛めつけられたら、そりゃあ激痛が走る。
敵の強大さによっても話は変わってくる。
こう何回も転生していると、時々あるんだが、魔王側、しかも世界の九割は征服済みというパターンもあった。
転生して情勢が分かった瞬間、ガッツポーズして喜んだもんだ。
自分はクソ強い暗黒騎士だし、もうやることなんて最後の国を滅ぼすだけ。
「こんな簡単な転生は初めてだ」とやる気満々で戦場へ向かった。
が、それは大きな間違いであった。
あれだよ、あれ。
姫に一目惚れして暗黒騎士が寝返るパターン。
最初期にかなり絶望的な所からの逆転劇をするしかないから、まずクソ弱い人間の国を防衛しながら兵士を育て、お転婆な姫とラブコメをするあの流れよ。
そんなの関係なく倒せば終わりって思う方もいるかもしれない。
でも、転生って一種のシステムなわけよ?
ストーリー展開が実は大まかに決まっていて、その中でできる限り自由っぽく冒険したり、なんかオンラインゲームに閉じ込められたりしてるわけ。
50回目ぐらいに天の声が聞こえてきたことがあったんだけど、『あぁ、そこ、左左、もうそういうプレイは視聴者求めてないよ? やっぱりスッと行ける所は行かないと、生放送なんだからしっかりと』とか言われたこともあった。
どうやら生放送をして視聴者もいるらしい。『スパチャ』も時々空から降ってくる。貴重な旅の資金だ。
にしても、なんで俺だけこんなに転生させられるのだろうか?
実世界では別に借金したり、誰かを庇って車に轢かれたり、謎のオンラインゲームに参加などもしていない。
極々平凡なサラリーマンだ。
先にも話していた通り、そんなサラリーマンが転生して戦っているところなんて、見ている人がいたとして本当に楽しいのかね、全く。
さて、そろそろ転生先にたどり着くみたいだ。
無駄なこと考えないで、今回も行きますか。
□
ズグヴェア・エニッグズ本社—
「今回、どんなのっすか?」
「えーっと、あれあれ、半年後発売のやつのβ版」
「あー、あのバグやばいやつっすね。また今回もあの人っすか?」
「そうそう、またあの人」
「おーっ、頑張って攻略してますねー」
「正直、このやり方が一番楽よね」
「それ終わったら、僕の方もデバッグあるんで、その人貸してください」
「うぃ、了解ー」
fin
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