過臆逅
コンコン浪士
過臆逅
日本の周囲にかなりの自然広がるとある町には昔から子供たちの間で有名な都市伝説があった。それは、町の北側の丘の上にある小さな家には近づいてはいけないと言うものだった。
なぜ近づいてはいけないのかと言う理由は特になく都市伝説のようなもので実際に家があるのかさえ判らなかった。
ある時、
✳︎
そうしてしばらくの間丘を登っていき最初のうちこそ喋りながら上がっていたが時間が経つにつれて口数が減っていき、誰も喋らなくなった頃にようやく上に着いた。 丘の上には、少し小さな古民家がポツンと建っており、霧が少しかかって神秘的でさえあった。そのせいかはわからないが全員が足を止めて息を飲み、立ち尽くした。そうしているうちに、剛が
「入ってみよう。」
と言い恐る恐る入口に近づき戸開けた。そうして戸を開け中に入ると、少し広めの玄関に部屋につながる戸があった。少し埃がまっており生活感などはないが確実に誰かが手入れをしているのは分かった。そう思っていると宏樹が、
「家の中もまわるの?」
と聞いたので剛は、
「せっかくここまで来たんだからまわろう。」
と言った。3人はゆっくりと靴を脱ぎ部屋に上がった。 部屋の中には少しシミがところどこある畳で敷き詰められており、
「
千九百十八年 九月二十一日生
千九百四十一年 十二月八日 亡 」
そこで宏樹が
「千九百四十一年十二月八日って少し前学校で習ったけど真珠湾攻撃の日じゃなかったっけ?」
そう言われた瞬間全員が悟った。この家の主人はすでに何年も前に亡くなっておりそれもおそらく戦争によるものだと。そうして全員が固まっていると玄関から声が聞こえた。
「おや?誰かいるのかい?」
そう女性らしき声がした時3人は
「おやまあ、若いお客さんだね。そこに座って待っておいで、今お茶を
と何もなかったかのようにお茶を淹れに行った。3人は状況が読み込めないまま席に座った。 そうして待っているとおばあさんがお茶を持ってきた。そうしてゆっくりと席につき言った。
「して、どのような要件でこの家に来たのかい?」
と聞いてきた。 それに剛が答えた。
「以前からこの丘には何かがあると思っていてそれで何があるのかを確かめに来ました。それと勝手に家に上がってしまってすいません。」
と申し訳なさそうに言った。するとおばあさんは
「いいのよ。そもそもこの家にはもう誰も住んでもいなし私がたまにくるだけだから構わないのよ。」
と言って快く許してくれた。そうしてしばらくおばあさんとお茶を飲みながら話していると正樹が恐る恐る聞いた。
「
するとおばあさんは
「あの人は私の夫よ。もう何十年も前に亡くなってしまったけれどね。」
そこで剛が
「なぜ亡くなってしまったんですか?」
おばあさんはゆっくりと頷き少し悲しげに話し始めた
「どこから話そうかしらね。あれはいつだったかしら。ある日の朝、いつも通り息子と私の朝ごはんの支度をしいたら玄関にある戸からノック音がきこえたの。まだ息子も寝ているから起こさないように戸を開けてみたら目の前に軍服を着ていた男の人が建っていたの。そしたら急に男の人が敬礼をして言ったわ。
『昭和十六年十二月八日に深作義雄は天皇陛下のために真珠湾にて戦死されたし。よって、
それを聞いた時は、もう言葉も出なかったよ。いきなりきて夫が死んだと言われてその場で立ち尽くしていたら、男の人が日記と遺言状を一方的に押し付けてきて、あろうことか最後にこう言ったのさ
『義雄氏はお国の為に死ねたのだ。非常に光栄なことである。』 って言ってきてね。それはもう言葉を失ったさ。何がお国の為だ。人一人の命を守れない国なんて無くなってしまえって思ったね。」
すると剛がおばあさんに聞いた。
「そのことを男の人に言ったんですか?」
「いいや。言ってないよ。そんなこと言ったら国家反逆罪で捕まってしまうよ。それはもう腹は経ったけど決して口にださないようにグッと
3人は息を呑んだ。自分たちは戦争のない平和な世界を過ごしてきて自分たちの知らない世界を生きてきた人の話を聞くのは実際に体験するのと想像を絶するものだと。すると宏樹が
「大変失礼な話なんですけど、日記の内容はなんて書いてあったんですか?」
「失礼な話なんかじゃないよ。これは知っておいた方がいい話だからね。どういう事があったのか・・・ 」
日記の最初は千九百四十一年九月二十八日から始まっていた
『千九百四十一年九月二十八日
真珠湾奇襲攻撃をするかもしれないという噂を聞いた。あくまで噂でしかないそうだが実際にするというならあまりにも無謀すぎる。
千九百四十一年十月二十八日
千九百四十一年十一月二十四日
真珠湾攻撃までの航空機での航路や急降下爆撃の話が通達された。軍は本当に決行するらしい。
千九百四十一年十二月七日
ついに明日決行だ。昨日妻からの手紙が届いた。息子が生まれたらしい、早く家に帰って抱きしめたい気持ちでいっぱいだ。
千九百四十一年十二月八日
ついに決行だ。幸運を祈る。それと、やはり生きて帰りたい。 』
そうしておばあさんが
「ここで日記は終わっているよ」
剛たち3人はすっかり言葉を失ってしまった。なぜなら今まで自分たちが書いてきた日記はもっと平穏でしょうもないことを書いていたのに比べ、この日記には短いながらも本物の感情が
「この後夫がそうなったかは戦死したこと以外全くわからないけれどこれだけは言えるね。 もう一度家に帰ってきて欲しかった。生まれたばかりの子供を抱きしめてあげて欲しかった。たとえそれがもう叶わぬ夢だったとしても・・・」
そう、おばあさんは泣きながら言った。 3人は眺めることしかできなかった。かける言葉さえも失って。 しばらくして泣き止んだおばあさんが
「すっかり暗くなってしまったね。早く家に帰りなさい。親御さんたちが心配してしまうよ。私はもうしばらくここに残るからさあ、おゆき。」
そう言われて家を出ようとするが、玄関についた時に剛が
「今日は本当にありがとうございました。突然きたにも関わらず貴重な話を聞かせていただきありがとうございます!」
と言ってお辞儀をした。それに対しおばあさんは言葉はかけず、ただ微笑んで3人を見送った。
過臆逅 コンコン浪士 @Konkon_05
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