黒の万事屋
AI
第1話
20xx年東京。
闇深き街の闇が更に暗くなる時。
私は一人で夜道を歩いていた。
「おっ丁度いいや、そこの兄ちゃん!!」
ふと、酒に酔った中年の男に声をかけられたので足を止める。
黒いコートがヒラリと風に揺られ白髪の少々雑に切られたボブの髪を共にゆらせて振り返る。
「なんですか?」
「いやぁ〜俺たちさ、北海道から来てんだけど財布落としちゃってさぁ〜ちょっとでいいから金貸してくんね?」
そう言いながら男は私の肩に手を置いた。ググッと力を込め地味に肩が痛む。
ニヤニヤしながら男は私の顔を覗いてきた。
「うっわ…こりゃ上玉だわ…男…?いや女か?」
私の顔を見て驚いた顔をした彼は少し離れた場所にいる仲間たちに合図をする。
するとゾロゾロとブヨブヨと嫌な肉をつけた男達がよってきた。
「見ろよこいつの顔。今日はこれで良くね?」
「うわホントだ。こりゃ今日は最高にツイてるなぁ。」
どうやらこの男達は私が男か女かも分かっていないのに拐かすつもりらしい。多様性が重視されるようになったのはいいがこういう点では少々面倒だ。
「んじゃ嬢ちゃん、俺たちと行こうか?」
そう言って肩を組んできた男。私はその男たちに向かって笑顔で答えた。
「お断りします。」
東京の闇をさらに詰め込んだような深淵の裏路地。嫌な匂いのするそこをしばらく進むと少しだけ道が広くなる。
するとふと、趣のあるバーの看板が光っているのが見えた。看板の下の扉に手をかけ開くとそこはカウンター席のみのとても小さなバーがあった。
店主らしき老人と1番奥の席で酒を煽っている代くらいの男がいた。恐らく2人とも"ここ"の定員であろう。
私はその男から4席ほど空いた場所に腰をかけた。
「ご注文は?」
店主が私に問いかけるので私は答えた。
「赤りんごをひとつ。」
赤りんごなんてもの、ある訳がない。だがその言葉にその場にいた私以外の全員が反応した。
「へぇ、珍しい。返り血まみれのお客なんで早々見ないよ。」
奥にいた男が私に向き直った。男は整った顔立ちで無造作に降ろされた前髪から除く伏見がちな赤い目が真っ直ぐ私を捉えている。
「警察に通報しますか?」
私はニッコリ笑って見せた。男の返答は決まっている。「出来ない。」なぜならここは機能を持つ人間が非公式でやっているいわば違法組織。
その名も「黒の万事屋」。名の通りなんでも引き受ける何でも屋だ。
免許をとっていないだけの違法商売ならまぁ多少問題にはなるだろうが返り血まみれの私を相手するよりかはまだ軽傷で済むだろう。
だがここは裏の世界の人間の利用する場所。
殺しに詐欺、テロに密輸。"なんでもやる"のだ。
私がそれを理解していることを相手も理解したようで男は呆れたように肩を竦めた。
「それで、要件は?」
「どんな仕事もこの黒の万事屋が完璧に遂行してみせます。」
その問いかけに私はこう答えた。
「私を…殺してください。」
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