裏の機関にやとわれたから、裏からこの平穏を全力で守りたいと思う。

@niky

第1話

 東京、市ヶ谷にて。桜の咲いた並木道を歩く。一歩風を切るごとに、ひらひらと舞う桜がほほに当たる。なかなか幻想的な、見応えのある景色だ。

 大学の新学期が始まった4月上旬、満開の桜は見ごろを迎えていた。等間隔に並ぶ木々の下では、ブルーシートが敷かれており、多くのサラリーマンと思しき人たちがどんちゃん騒ぎをしている。ありふれた日常、平和な世界。いつまでも、このままの景色でありたいと思えるような景色。

 俺――神木正成かみきまさなりは、このありふれた日常が好きだ。

 ……俺は別に、ライトノベルによくいる感傷に浸り世の中をセンチメンタルにとらえる主人公ではない。ではなぜ、こんな日常を好きだとできるのか。それは、この日常を守ることこそが、俺のだからだ。

 そう、これは例えるなら……バイト先で自分の作ったものをおいしいと言って、喜んでもらえたときのうれしさのようなものだ。世界が平和なら、俺のテンションもマックス。

 ……さすがにこれだけだとうわぁ、おまえ中二病すぎ?といわれてしまいそうなので、少し俺のことを説明したいと思う。最初は……そうだな、この”日本”を取り巻く世界から説明しようか。

 

 第二次世界大戦後による敗戦後の、”冷たい戦争”の終わりとはじまり、我が国の復興のお話は、おそらく読者諸兄らも義務教育で学んだだろう。そしてその間戦火を免れ、敗戦後80年平和を謳歌している、ということも。

 だが、おかしいと思ったことはないだろうか?世界では民族、貧困、領土、人間……様々な観点で対立し続け、その主義主張を武力によって体現しようとしている。特に、近年ユーロ大陸の各国では宗教テロが頻発している。

 しかし、この国は諸外国からテロの標的とされたことはない。80年もの間、少なくとも国内要因を除いて諸外国のテロはすべてを退けてきた。

 話が見えてきただろうか?つまり、その平和はに作られている。それを行っているのが、俺の職場――内閣情報調査室CIRO(サイロ)だ。

 

 内閣情報調査室(通称内調)、このくそながったるい名前を普段聞くことはほとんどない。表には出ない、陰の機関であるからだ。内閣の直下……つまり、首相の直下に置かれたこの組織は、国家に仇なす国家や組織に対する情報収集をさまざまな角度から日夜行い、総理に報告、また関係機関と連携し対処を行う。わかりやすい例えを出すと、諸外国の似た機関としてCIAやSISなんかがこれに当たる組織で、日本の「情報機関」と呼ばれる組織のトップに位置している。

 

 こう書くとなかなかカッコ良さそうだろう?たいていの人は、映画のような派手なシーンをイメージするかもしれない。なんせたいていの学生はCIAなんかのエージェントになったり、学校がテロリストに占拠されたのを謎の力で解決する、なんてことを夢見るものだ。

 だが、この機関はもっぱら情報をことに特化した機関、つまり、別に実行部隊がいる。だから、もっぱらのところそういった激しいシーンなど皆無。俺の仕事も集めた情報の統合、考察、分析がほとんどだ。そしてそれは俺がこの組織にスカウトされたことにも関連する。

 当然ながら、内調は大卒後に配属することがほとんど。しかし、俺はまだ19歳のぴっちぴちの大学2年生である。なんなら入った時は中学2年生だ。

 じゃあなぜ?という問いに最も簡潔に答えるならば、「スカウトされたから。」ということになるだろう。自分で言うのもなんだが、俺は情報を集めて、分析して、そこから考察を導き出すのが常人の何倍もできる。……地味だとか言わないでくれ、俺もそう思ってるから。本人が一番わかってるから。

  いや、もちろん役に立っているときもありますよ?例えば、隣国の新型兵器の性能について公開情報だけであらかた突き止めたし、他国で戦争が起きた時にはSNSの分析を駆使して今どこが占領されているのか、部隊がどこにいるのかを詳細に把握して報告した。

 

 まぁ、目立たないがなきゃいけない存在。例えるなら……家の基礎部分みたいな。いい例えだろう、たぶん。まぁ、それで中学のころから割かしその面で名をはせていた俺は、一気に目をつけられてあえなく捕まってしまったのである。あ、もちろん入る入らないは個人の自由意志でしたよ?もちろん。

 まぁこの仕事を始めてもう6年目。いつの間にか中学も高校も卒業して大学生2年生になっていた。時の流れは速いものです。

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